artscapeレビュー
撮影された岡山の人と風景──県内作家の近作とともに
2022年07月15日号
会期:2022/06/03~2022/07/10
岡山県立美術館[岡山県]
仕事で出かけていた岡山の岡山県立美術館で、興味深い展示を見ることができた。EU・ジャパンフェスト日本委員会が1999年から実施している写真プロジェクト「日本に向けられたヨーロッパ人の眼/ジャパン トゥデイ」の一環として、2001年にオランダのハンス・ファン・デル・メールとベルギーのアン・ダームスの二人が招聘され、岡山県内を撮影した。今回は、同美術館主催の「岡山の美術 特別展示」の枠で、その二人の作品の20年ぶりの展示が実現した。あわせて、同県在住の写真家たち、柴田れいこ、小林正秀、杉浦慶侘、下道基行の写真作品も展示されている。そのうち、小林、杉浦、下道は、県内の若手写真家に授与されるI氏賞の受賞作家である。
ファン・デル・メールは都市や農村の環境に対応した1人の人物を選び出し、建造物の中央部に立たせて撮影する。ダームスは日常の断片を思いがけない角度から切りとったスナップ写真を制作した。これらオランダとベルギーの写真家たちの、いわば異文化に向けられた眼差しのあり方に対置するように、日本人写真家たちはそれぞれゆかりのある人、場所にカメラを向けている。柴田は戦没者の妻と日本人と結婚した外国人の女性のポートレートを、彼らへの聞き書きの一部とともに展示した。小林は在住する美作地方の風物を、端正な黒白写真にまとめあげる。杉浦は深みのある森の写真とオブジェによるインスタレーション、下道は東日本大震災以後に撮影した、小さな仮設の橋の写真を集成したポートフォリオ・ブックを出品していた。
彼らの写真の方向性はバラバラだが、逆に多元的な視線の絡み合いによって、岡山という土地のあり方が複層的に浮かび上がってくる。ほかの県でも、「日本に向けられたヨーロッパ人の眼/ジャパン トゥデイ」の作品を活用して、同じような企画が考えられるのではないだろうか。
2022/07/03(日)(飯沢耕太郎)