artscapeレビュー
ダニエル・マチャド「幽閉する男」
2009年04月15日号
会期:2009/02/18~2009/03/03
銀座ニコンサロン[東京都]
作者には悪いが、それほど期待していなかったのに意外に面白かったという展示がある。ウルグアイで建築を学んだあと、2000年頃から写真家として活動を開始し、06年からは東京に在住しているダニエル・マチャドの「幽閉する男」もそんな展覧会だった。
写っているのはウルグアイ内務省法務部の最高幹部だったホセという男の部屋。古色蒼然とした家具が並び、壁には家族の古い写真が額に入れて飾られ、机の上には枯れた花、積み上げられた本には埃がかぶっている。かと思うと、部屋にはまったくそぐわないポップな人形が飾られていたりして、何とも奇妙な、どこか荒廃した不吉な雰囲気が漂っているのだ。どうやらホセは内務省を退職し、同居人だった叔母も亡くなってしまったあと、自分自身をこの部屋の中に「幽閉」してしまったらしい。外部の接触を断たれたことで、部屋はそれ自体が生きもののように成長し、ホセと一体化して饐えた匂いを発しながらうごめき、伸び縮みしているようにも見えてくる。
ホルヘ・ルイス・ボルヘスやガブリエル・ガルシア=マルケスなど、中南米文学のテーマになりそうなこの部屋に向けられたマチャドの視線にも、奇妙に歪んだバイアスがかかっているようようだ。写真機を意味する「カメラ」(camera)という言葉はもともと「部屋」という意味だから、写真のテーマとして相性がいいのだろう。部屋の写真だけを集めたアンソロジーというのも面白いアイディアだと思う。
2009/03/01(日)(飯沢耕太郎)