artscapeレビュー
本橋成一『バオバブの記憶』
2009年04月15日号
発行所:平凡社
発行日:2009年3月10日
バオバブという樹にはとても思い入れがある。ご他聞に漏れず、僕もこの樹の存在を初めて知ったのは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』だった。そこでは、惑星を破壊してしまう怖い樹として描かれているが、実際によく東アフリカに行くようになってバオバブを見ると、ずんぐりとした姿がどことなくユーモラスで愛嬌があって、すっかり好きになってしまった。雨季の終わり頃には、ぶらぶらと大きな実が風に揺れている、バオバブには「人が生まれた樹」という伝承もあるが、本当にその中に赤ん坊が入っていそうでもある。
本橋成一もバオバブにすっかり取り憑かれた一人で、35年前に仕事で滞在していたケニアで初めて出会って以来、マダガスカル、インド、オーストラリアなどでも撮影を続けてきた。今回はとうとう西アフリカのセネガルに長期滞在し、写真集だけでなく、同名の記録映画(渋谷・イメージフォーラム、ポレポレ東中野でロードショー上映)まで作ってしまった。どちらもモードゥという少年とその家族を中心に、バオバブの樹とともに生きる村の暮らしを丁寧に描いていて、味わい深い出来栄えである。僕のようなバオバブ好きにはたまらない作品だが、たとえ実際に見たことがない人でも共感できるのではないだろうか。われわれ日本人のなかにもある、「鎮守の森」を守り育てるようなアニミズム的な自然観に、バオバブの樹のどこか懐かしい佇まいはぴったりフィットするように感じるのだ。
なお、やはり「バオバブの記憶」と題された写真展も、東京・大崎のミツムラ・アート・プラザで開催(2009年3月9日~31日)された。写真集と同じ写真が並んでいるのだが、大伸ばしのクオリティがやや低いように感じた。デジタルプリントの精度が上がってきているので、逆にプリントの管理が甘いと目立ってしまう。
2009/03/24(火)(飯沢耕太郎)