artscapeレビュー
『ゼラチンシルバーLOVE』
2009年04月15日号
会期:2009/03/07~2009/04/10
東京都写真美術館 1Fホール他[東京都他]
写真家として長いキャリアを持ち、ピラミッドフィルムの主宰者としてコマーシャル・フィルムも多数製作してきた操上和美の映画監督第一作。主演の宮沢りえの妊娠騒ぎなどもあって話題の映画を、東京都写真美術館のホールで観てきた。
冒頭からいかにも操上らしいクローズアップの質感描写が続く。重厚で切れ味の鋭さをあわせ持つ映像の魅力は全篇に貫かれていて、その点では安心して観ていられる。ストーリーもとても古典的でストイック。見続ける男(カメラマン=永瀬正敏)と見られる女(殺し屋=宮沢りえ)が、永遠に交わらない平行線のような関係を延々と続け、その間に彼女の姿を盗撮した映像に対する男の欲望が異様に昂進していくと言う筋立ては、あまり新鮮さはないがきちんと練り上げられている。ただ映画の後半になるに従って、男と女が実際にクロスしはじめると、緊密な構成に破綻が生じてくるように感じる。「触れることなく、言葉も交わさずに、愛を昇華する──」というのが映画のチラシの謳い文句なのだが、男も女もかなり饒舌に、互いに言葉をかける場面があるのだ。しかもこれは脚本家の責任だと思うが、セリフが堅苦しく、聞いていてちょっと白けてしまう。
もう一つ、永瀬正敏が自分の作品として撮影している写真がどうもぴんとこない。「なぜこんな黴みたいに気持ちの悪い写真を撮っているのか?」と問われて、「僕はこれが美しいと思って撮っているのです」と答える場面があるが、普通のカメラマンならこんな歯が浮くようなことは絶対にいわないだろう。これまた脚本家が勝手に想像して書いたセリフだと思うが、できれば監督としてチェックしてほしかった。いい脚本家と組めば、もっといい映画ができそう。次作はぜひ笑える映画にしてほしい。今回はコメディアンとして優れた素質を持つ永瀬正敏が熱演しているにもかかわらず、笑いが不完全燃焼。
2009/03/14(土)(飯沢耕太郎)