artscapeレビュー
平田晃久『animated 生命のような建築へ 発想の視点』
2009年04月15日号
発行所:グラフィック社
発行日:2009年2月25日
平田晃久の初の著作にして、とても実験的、挑戦的な本。絵本のように大きな文字で、一文一文は難しくないのに、全体を通して理解しようとするとできない。平田氏本人の思考にまでたどり着かないと、決してすべてが分からないような、知的なからくりと仕掛けが満載。作品集とも書籍とも絵本ともいえず、そのすべてともいえる。「内発性」「A, A', A''……」「開かれた原理」「対角線的」「360°」「ひだ」「同時存在の秩序」「[動物的]本能」「脱[床本位制]」「人工という自然」という10個のキーワードが章をつくり、それぞれが関連する数枚の図版と短いテキストで構成される。各章内の図版とテキストの関連性は特に説明されないし、10個のキーワードの関連性も説明されない。にもかかわらず、図版群とテキスト群は、読み進めていくうちに、互いに関連性を主張し合い、時に衝突し、時にゆるく手を結びながら、何か一つの背後にある原理を指し示しているようにも見えてくる。平田氏の言葉を借りれば、それは「内発的な原理」ということなのかもしれない。つまり、例えばある一つの原理から、演繹的に10個のキーワードが現われてきたというわけではなく、10個のキーワードそれぞれが、他のキーワードを生み出すための原理を内在させているような、そういう関係ともいえるかもしれない。もっとも平田氏は、建築における「内発的な原理」を語っているのだが、その射程は建築的思考や理論も巻き込んでいるだろう。単純に線的な読解では、全体を読み取ることが出来ず、錯綜する複数のラインを並行して追っていくことで、その走査の痕跡からようやく全体像に近づけるような、そういう組み立てられ方である。かといって断章というには、あまりにそれぞれ概念の関連が強い。「animated」とは、生気を与えられたという意味。平田氏は建築に生命を与えようとする。そして生命を与えるための「内発的な原理」が、模索されている。何度でも、繰り返し読んで発見のある本だ。そしてタイトルの通り、生き生きとし、まるで生きている本のようだという気がした。
2009/02/25(水)(松田達)