artscapeレビュー

秋元茂「CRYSTALOGRAPHY」

2009年04月15日号

会期:2009/03/03~2009/04/30

gallery bauhaus[東京都]

「CRYSTALOGRAPHY」というのは「結晶図像学」とでも訳せばいいのだろうか。写真家の部屋の中にいつのまにか集まって来たオブジェ群が、知らぬ間に「結晶化」し、まったく違ったものに変容する瞬間があるのだという。4×5判のカメラを用いて、その瞬間を精妙なバランス感覚で固定した端正な写真が並ぶ。ガラス、木片、楽譜、グラスと水など素材はシンプルだが、「偶然性に出来る限り依存せず、被写体を含めたすべてを自己のコントロールの下に置き、思念を過飽和状態にして結晶化の行為を待つ」という科学者のような態度が貫かれていて、ぴんと張りつめた緊張感がある。秋元茂は博報堂写真部を経てフリーランスで活動するベテランだが、このような職人的な技巧の冴えをきちんと見せてくれる写真家も少なくなってきた。1Fに展示されていた田辺聖子、蜷川幸雄、樹木希林などのポートレートも、隅々まで神経が行き届いていてなかなかよかった。
ところでgallery bauhausに行ったのは、秋元の個展を観るだけではなく、その前の横谷宣展で購入した作品を取りに行くためでもあった。オーナーの小瀧達郎さんと話をして驚いたのだが、なんと横谷の作品は51点(!)も売れたのだという。5万円台という手頃な価格設定ということもあっただろうが、ほとんど無名の写真家の初個展ということを考えると、これは驚くべき数字である。口コミやブログでじわじわと人気が高まり、初めて写真作品を購入するような人が次々に訪れて買っていったらしい。横谷本人の修行僧を思わせる特異なキャラクターもさることながら、やはり彼の写真そのものに力があるということだろう。いい作品はきちんと動く。そのことを証明する快挙といえるのではないだろうか。

2009/03/13(金)(飯沢耕太郎)

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