artscapeレビュー

やなぎみわ「マイ・グランドマザーズ」

2009年04月15日号

会期:2009/03/07~2009/05/10

東京都写真美術館 2F展示室[東京都]

やなぎみわの「エレベーターガール」のシリーズが出てきたときには、新鮮なショックを受けたし、近作の物語性の強い「フェアリー・テール」もかなり好きだ。でも「マイ・グランドマザーズ」は僕にはとても相性が悪い。以前もまったく馴染めないと感じたし、その印象は新作を含めて全26点が一堂に会した今回の展覧会でも変わらなかった。
女性たち(男性も3名含む)に50年後の未来を想像してもらい、メーキャップや舞台設定に意匠を凝らしてそのシーンを作り上げるというコンセプトそのものはよく理解できる。モデルとの共同作業は大変だろうが、楽しみもあるだろうし、最終的な仕上げのイメージも細部までしっかりと練り上げられている。にもかかわらず、見ていて居心地が悪いし、何だかしらけてしまうのだ。全員とはいわないが、ほとんどのモデルたちは50年後の未来の自分をポジティブに(何とも能天気に)想像している。むろんそうならない場合が大部分だろう。別に悲惨な未来を押しつけるつもりはないが、彼らのナルシシズムたっぷりの「お遊戯」に付き合わされるのはちょっと勘弁してほしいと思ってしまうのだ。
もしかすると「50年後の自分」というコンセプトに問題があるのだろうか。これが「50年後の他者」だったらどうだろう。目の前にいる人物の50年後を想像してみたら、こんなシュガーコーティングされたようなイメージばかり並ぶだろうか。誰しも自分に甘くなるので、いつもの批評性が薄まってしまっているのではないか。やなぎみわの作品は、完璧に囲い込まれた物語世界を構築した方が精彩を放つように思える。この「マイ・グランドマザーズ」のシリーズはモデルたちの記号化が不徹底で、その人格が中途半端にリアルに透けて見えるのが、居心地の悪さを引き起こしてしまうのかもしれない。

2009/03/06(金)(飯沢耕太郎)

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