artscapeレビュー
世界記憶遺産の炭坑絵師──山本作兵衛 展
2013年04月15日号
会期:2013/03/16~2013/05/06
東京タワー1階特設会場[東京都]
2年前、日本初の世界記憶遺産に登録された山本作兵衛の炭坑の記録画が、なぜか東京タワーで展示される。これは、作兵衛が炭坑を描き始めたのが東京タワーの完成とほぼ同じころだったという縁らしい。もちろん炭鉱も東京タワーも日本の近代化のシンボルだからとか、東京タワーは立坑櫓をデカくしたようなものという含意もあるかもしれない。午前11時からの内覧会に行ってみたら、概要説明の後IKKOさんが特別ゲストとして登場。炭坑の絵を見に来たのになんでオネエのトークなんか聞かなきゃいけないんだと憤りつつ聞いてたら、IKKOさんは炭鉱の街田川の生まれだそうだ。こんど川俣と対談やらせてみたい。ようやく展示会場へ。おーあるある、坑内の労働や坑夫の生活を描いた水彩画が……と思ったら、あれれ? よく見ると印刷じゃないか! 最初の10点は複製画の展示で、その後の59点はホンモノの原画だという。作兵衛が炭坑の絵を描いたのは、現場を離れた60代なかばから92歳で亡くなるまでの30年近くで、そのあいだに何点の作品を残したのか不明だが(千点以上といわれる)、世界記憶遺産に登録されたのは日記や資料も含めて697点。いったん登録されると外部への出品が制限されるため、今回展示されている原画はそれ以降に発見された作品などだそうだ。まあとにかく、これらの絵には現代絵画が置き去りにして来た奔放な視覚表現が息づいている。同じ絵を何枚も繰り返し描いていること、説明文や唄の歌詞を画面の余白に書き込んでいること、人物のポーズや表情がパターン化していること、着物の柄やかごの編み目など細かい部分をていねいに再現していることなどだ。これらの特徴はアウトサイダー・アートに通じるところがある。いや実際7歳で炭坑に入り、美術学校に通えるはずもなく約50年間炭坑で働いたあと、その記憶を元に60代なかばから描き始めたというのだから、リッパなアウトサイダー・アートといっていい。展示でひとつ気になったのは、壁に炭坑の写真を貼り、その上に絵を展示していること。こんな屋上屋を架さなくても絵自体で十分に存在感があるんだから。
2013/03/14(木)(村田真)