artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
堀込幸枝
会期:2012/01/14~2012/01/28
ギャラリー椿[東京都]
おもに色のついたガラス瓶をソフトフォーカスなタッチで描いている。というと静物画を連想するけど、彼女はガラス瓶の部分を省略したりフォルムを変えたりして、ちょっとジョルジョ・モランディみたいに抽象っぽい。でもモランディよりずっと透明感があるのは、何十層と絵具を塗り重ねているからだろう。これも油絵ならではの醍醐味。
2012/01/16(月)(村田真)
three展
会期:2012/01/06~2012/01/29
資生堂ギャラリー[東京都]
若手作家の支援を目的とする「アートエッグ」シリーズの第1弾は、その名のとおり3人組のユニット「three」。作品はふたつあり、ひとつは、メインギャラリーに天井から糸で約7千個のキャンディやグミを吊るし、全体で家の輪郭をかたちづくったインスタレーション。観客は1個ずつとって食べることができ、包み紙は1カ所に集められる。会期が進むにつれ家のかたちは下端から徐々に崩れていき、反対に包み紙(ゴミ)の山が大きくなっていく趣向だ。もうひとつは、大きく波打たせた壁一面に約6万5千個の醤油差しをとりつけ、そこに都市風景や群衆の映像を投影したもの。魚型の醤油差しが1個1個ピクセルと化しているのが笑える。どちらもポップな日常品を多数用いて現代社会のおかしさを突いているが、それだけでなく、アートオタクが喜びそうな謎解きも隠している。前者は、キャンディの山から観客に1個ずつとってもらうフェリックス・ゴンザレス・トレスのインスタレーションを逆転させたものだし、後者の波打つ壁は国立新美術館のファサードを想起させずにはおかない。ただ、家のかたちがわかりづらく、波打つ壁も完成度が低かったのが惜しまれる。
2012/01/13(金)(村田真)
藝大先端2012
会期:2012/01/07~2012/01/15
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
全体の印象だが、初期のころの先端の卒展に比べて、つくる技術も見せる技術も格段にレベルアップしているのは明らかなのに、なぜか今年はひとつも心に残る作品がなかったなあ。毎年1点や2点は「優れた」というより「規格外・想定外の」それゆえに「心に残る」作品が見られたのに、それがないということは、ひょっとして「先端芸術」という規格・想定に収まる優等生が増えたということかもしれないし、それはそれで先端芸術表現科の勝利なのかもしれない。あるいは心に残らないのは、毎年確実に広がるぼくと卒業生との世代間ギャップによるものだとしたら寂しい限りだが、まあ単にぼくが正月ボケだったからだと考えるとちょっと安心したりして。
2012/01/07(土)(村田真)
渋谷ユートピア1900-1945
会期:2011/12/06~2012/01/29
渋谷区立松濤美術館[東京都]
菱田春草、岡田三郎助、岸田劉生、村山槐多、竹久夢二など、かつて渋谷区(1932年に誕生、それ以前に豊多摩群の一部)には多くの芸術家が住んでいたらしい。地図で見ると代々木と広尾あたりに多いようだが、全体に点在している。別に芸術家たちがこの地にユートピアをつくろうと移り住んだわけではなく、ましてや渋谷区が芸術家を優遇していたはずもなく、当時たまたま家賃が安かったのでこのあたりに住んだというだけの話だろう。それでも渋谷区としては「文化の街」としてのイメージアップにつながるからシメタもの。ならばいま芸術家を支援しておけば、50年後くらいにもっと豪勢な「渋谷ユートピア2000-2050」とか開けるかもよ。
2012/01/06(金)(村田真)
フェルメールからのラブレター展
会期:2011/12/23~2012/03/14
Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]
フェルメールが3点も来た。たった3点というなかれ、数の少ないフェルメールだからとても貴重だ。しかも今回は借りられるものを借りてきたというのではなく、手紙をモチーフにした絵に絞っている。とりわけうれしいのは《手紙を読む青衣の女》が見られること。地図をバックに女性が横向きに手紙を読み、かたわらに椅子やテーブルが置いてあるだけ、色彩もブルー系とオーカー系でまとめたきわめてシンプルな小品だが、おそらく画家の筆がもっとも冴えた最盛期の傑作のひとつといえる。注目すべきは、女性の頭部と背景の地図に同系色を用いながら、質感の違いや陰影・明暗を微妙に描き分けていること。これは、色彩も輪郭もくっきり描いた晩年の作とおぼしき《手紙を書く女と召使い》と比べると、違いは明らか。まさにフェルメールならではの絶妙な表現だ。フェルメール以外にもヤン・ステーンとかテル・ボルフとかヘリット・ダウとか、興味深い画家がたくさん出ているが、目に止まったのはファン・ボホーフェンという画家。珍しい大画面(といっても120号大)に11人の家族を描いたものだが、胴体と顔の向きが不自然なうえに、それぞれエリマキトカゲのように巨大な白襟をつけているので、なんだか生首の見本市みたい。でも美術史的な価値基準によらずにこれをながめてみると、スーパーリアリズムかコラージュ作品のようにも見えてくるのだ。惜しいことに、これを描いた4年後にわずか25歳の若さで亡くなったという。もう少し長生きしていたら名を残したかも。
2012/01/06(金)(村田真)