artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

中村哲也「フォルムズ」

会期:2013/01/18~2013/02/11

A/Dギャラリー[東京都]

中村はここ十数年、見た目がチョー速そうな(だけでじつはなんの力学的根拠もない)デザインの車体モデルと、そのスピードを誇示すべく車体に塗布する火焔パターンをつくっている。いってしまえば「ハッタリ」だが、それを徹底的に追求すればこんなにカッコいいアートになるという見本だ。壁に1メートル超の車体モデルが11台(+4メートルほどのモデルが1台)、床に5メートルほどの骨組だけのモデル(というより穴だらけの車体といったほうが正確)がドーンと1台。ほかに数十点のドローイングが展示されている。いずれもいまや死語に近い「流線型」の極致で、メタリックな火焔パターンが塗装されているのだが、驚くのはこれらがすべて「手づくり」ということだ。これぞ究極の職人芸! これぞクールジャパン!

2012/01/31(木)(村田真)

会田誠──天才でごめんなさい

会期:2012/11/17~2013/03/31

森美術館[東京都]

ネット上で「ポルノ被害と性暴力を考える会」が森美術館に抗議したと話題になっているので、念のためもういちど見に行った。問題になったのは、手足を切断され、犬の首輪をつけられた全裸の少女を描いた「犬」シリーズなどで、抗議団体によればこれらは「残虐な児童ポルノであるだけでなく、きわめて下劣な性差別であるとともに障がい者差別」でもあるとしている。たしかに「手足を切断され」と書いてるだけでも残虐とは思うが、これはあくまでフィクション=絵空事であって現実ではない(写真でも動画でもない)から、被害者はいない。実在のモデルもいないのだから「少女=児童」と決めつけるわけにもいかない。それでもなお「児童ポルノ」というのだろうか(抗議文でも「日本の児童ポルノ禁止法においては現在、実写ではない児童ポルノは違法とされていません」と認めている)。しかし違法でないとはいえ、これを「性暴力」「性差別」として不快に感じる人がいたことは事実だ。これがギャラリーのような限られた人しか訪れない場所に展示されるならまだしも、より公共性の高い美術館で公開するのだから「取り扱い」に注意する必要はあるだろう。森美術館はこうした抗議をあらかじめ見越したうえで、ネット上でもチケット売場の手前でも「性的表現など刺激の強い作品が含まれているため、事前にご了承いただきます」と告知しているし、また件の作品群に関してはいわゆる「18禁部屋」に隔離するなど幾重にも予防線を張っている。それでも抗議が来るのは、展望台と同一チケットで入れるため、アートにはなんの興味もない善男善女が大量に流れてくる森美術館ならではの宿命かもしれない。ちなみに、ぼくが「犬」シリーズを最初に見たのは「戦争画リターンズ」シリーズと同時期だったせいか、この絵のことを日本軍が中国人や朝鮮人に対しておこなった性暴力を含む蛮行の比喩だと思い込んでいたので、なんの抵抗もなく(というのも逆に変だが)受け止めたのを覚えている。個人的な意見を述べれば、この「犬」シリーズをはじめ、会田の作品はすべて人間の暗部や現代社会のねじれをきわめて的確に、諧謔的に、そして露悪的なまでに暴き出している点で高く評価しているが、同時に「性暴力」「性差別」ではないかという指摘にも(見方が狭いとは思うけど)耳を傾けなければならないと思っている。つまり芸術であり、同時にワイセツでもありうるということだ。問題は、森美術館ではどちらが優先されるか、されなければならないかということではないだろうか。ところで、この抗議団体に対して抗議内容とは別に違和感を感じるところがある。それは彼らが森美術館だけでなく、同展を紹介したNHKの「日曜美術館」や、会田誠を特集した『美術手帖』誌、同展チケットと赤ワイン付き宿泊プランを提供しているハイアットホテル、はては森美術館が加盟もしていない美術館連絡協議会や文化庁にまで抗議先を広げようとしていることだ。このなりふりかまわぬやり口は、たとえば日教組をつぶすためその貸し会場にまで圧力をかける右翼団体と変わらないではないか。たとえ抗議内容に共感しても、こんなやり方をしていているようでは同調する人は少ないだろう。

2012/01/31(木)(村田真)

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試写『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』

会期:2012/01/27

ブロードメディアスタジオ[東京都]

1994年に南仏で発見されたショーヴェ洞窟の壁画は、約3万2千年前に描かれた世界最古の絵とされている。壁画保護のため入場を制限しているこの洞窟に、初めて3Dカメラによる撮影を許可されたのがヴェルナー・ヘルツォーク監督だ。この映画のおもしろさは、もちろん第一に洞窟壁画を3D映像で体感できること。洞窟壁画には凹凸がある、というより壁の凹凸に沿って描かれているのに、われわれが目にすることができるのは図版だけなので、それを実感できなかった。この映画では、とくに後半に思うぞんぶん絵の立体感(この矛盾に洞窟壁画の秘密がある)を体験することができるのだ。第二のおもしろさは、洞窟に入るのに撮影機材やスタッフの人数まで厳しく制限されたため、とくに前半では洞窟に入って撮影するというみずからの行為自体をドキュメンタリーの対象にせざるをえなかったこと。つまり、メタドキュメンタリーという自己言及的な事態を引き起こしているのだ。そして第三は、これを見る観客がいる暗い映画館内と、映像内の洞窟空間とがひと連なりにつながって感じられるということ。とくに試写室という狭い密室空間ではなおさら自分が洞窟内にいると感じられる。ともあれ、洞窟壁画ファン(少ないだろうけど)には垂涎の映画であることは間違いない。[TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで、3週間限定 春休み特別ロードショー(3/3~)]

2012/01/27(金)(村田真)

宮川香山 眞葛ミュージアム

宮川香山 眞葛ミュージアム[神奈川県]

ジャポニスムの調査のため、明治期に横浜で活躍した陶芸家・宮川香山の美術館へ。横浜ポートサイド地区のビルの一画という、駅から行きにくいうえにわかりにくい場所にあるので、さんざん迷ったあげく到着。着いてみればわかりにくい場所ではないんだけど、表示が少ないので行き着けなかったのだ。さて、宮川香山といってもいまやほとんど知られてないが、京都出身で維新後に輸出用の陶磁器をつくるため横浜に移住した眞葛焼の陶工。初期のころは花瓶に鳥やカニがくっついたような、レリーフどころではない超立体的なハイパーリアリズム陶器で人気を博し、欧米の万博で賞を総ナメ。ところが10年もたたないうちに欧米人の好みの変化を目ざとく読み、作風を一転させてシンプルな磁器を制作。これがまた立体陶器に輪を掛けて海外で人気となった。したがって作品のほとんどは海外に流れてしまったので、ミュージアムをつくるために欧米各地で買い戻さなければならなかったという。ミュージアムといってもビルの一角を占める小さな施設だが、かつて横浜に窯があり、世界的な陶工が活動していたことを知るだけでも意義のある美術館だ。

2012/01/27(日)(村田真)

「ルーヴル美術館からのメッセージ:出会い」記者発表

会期:2012/01/26

フランス大使館[東京都]

パリ・ルーヴル美術館の作品が初めて東北の地で見られることになった。これはルーヴル美術館から3.11の被災者に向けた連帯のメッセージで、24点の作品を貸し出し、岩手県立美術館(4/27-6/3)、宮城県美術館(6/9-7/22)、福島県立美術館(7/28-9/17)の被災3県の美術館を巡回させる計画。作品は古代オリエントの彫刻、ギリシャのレリーフ、イスラム美術、ルネサンスの工芸品、バロック絵画など時代もジャンルもさまざまだが、すべて複数の人物(や神)を描いたもので、「出会い」がテーマとなっている。さすがフランス、シャレたことやってくれるじゃん。まあ原発事故の直後から在日フランス人を本国に引き上げさせた国だからね。原発大国だけに事故には敏感に対応せざるをえないのかも。福島県立美術館の人がいった「震災でもなければ、ルーヴル美術館と福島県との出会いなど考えられなかった」との発言には苦笑。

2012/01/26(木)(村田真)