artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

阿蘭陀とNIPPON

会期:2010/04/24~2010/07/02

たばこと塩の博物館[東京都]

日蘭通商400周年記念展。400年といっても展示の中心はもちろん、オランダが日本と唯一通商を許された江戸時代の約250年に絞られてくる。この間、出島という針の穴のような窓口を通して伝わってくる西洋の文明文化が、いかに誤解されたり拡大解釈されたりしながら日本に根づいていくかが見どころとなる。その観点から見れば、本展には出てないけれど、レンブラントの解剖図と杉田玄白らの『解体新書』が、フェルメールの風俗画と《彦根屏風》をはじめとする室内遊楽図が接点を持ち始めるのだ。ま、ぼくの興味は17世紀オランダ絵画と日本美術の接点だけですけどね。

2010/04/30(金)(村田真)

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佐々木耕成 展「全肯定/OK.PERFECT.YES.」

会期:2010/04/23~2010/05/23

3331アーツチヨダ[東京都]

連休初日に訪れる。3331は廃校となった旧練成中学校を改修したアートセンターで、ギャラリー空間は床まで真っ白なホワイトキューブ。その壁面を埋めつくすように約50点の絵が並んでいる。EやHみたいな記号的形態に赤、青、黄色などの原色をフラットに塗った抽象画。半世紀ほど前の前衛絵画といった印象だ。しかもそれが合板にペンキという安っぽい素材で描かれているのだから、どっちかというとアウトサイダー系を想起させる。しかしこの場合、描かれた内容とペカペカな素材が奇妙にも一致していることに注目したい。作者の佐々木耕成は今年82歳。60年代に前衛芸術運動を展開し、その後ニューヨークに滞在。帰国後は美術界との関係を断って群馬県の赤城山麓にこもり、10年ほど前から絵画制作を再開。近年ますます旺盛な制作意欲を見せているという。それを聞いて納得。彼にとって「なにを描くか」「なにで描くか」「いかに描くか」などもはや問題ではなく、ただ「描き続けること」が重要なのだ。

2010/04/29(木)(村田真)

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公開制作49:長谷川繁

会期:2010/04/10~2010/07/11

府中市美術館[東京都]

国芳もいいが、どっちかというとこっちの絵を見たかったのだ。長谷川繁は90年代にショウガや肉を描いた絵画でデビュー。なぜショウガや肉なのかさっぱりわからなかったが、その筆勢や色彩がとても魅力的だった。その魅力はいまでも変わらず、変わったことといえばモチーフをいくつか組み合わせて奇妙なイメージを形成するようになったこと。たとえばキュウリとバナナをつなげて文字のように見せたり、マグリットのようなシュールなイメージを現出させたり。どうやら長谷川にとってモチーフとは、絵画を成り立たせるための単なるきっかけであって、別になんでもよかったみたい。残念なのは、今日は本人が不在のため公開制作室がロックされ、ガラス越しにしか作品が見られなかったこと。でも7月までやってるから、次の「ノーマン・ロックウェル展」(5/19~7/11)のときにまた来よう。

2010/04/24(土)(村田真)

歌川国芳

会期:2010/03/20~2010/05/09

府中市美術館[東京都]

土曜の午後とはいえ、ふだんは閑散とした郊外の公立美術館にしては異例のにぎわい。さて、国芳というと、巨大な骸骨が登場したり、アルチンボルド風の合わせ絵を工夫したり、奇想の系譜に連なる戯画家のイメージが強いが、その奇想が天保の改革による表現の弾圧に対処するサバイバル戦術だったと知ると、江戸の浮世絵師のたくましさとしたたかさを感じざるをえない。内容といい点数といい、そこそこ楽しめる展示ではあったが、やはり浮世絵は浮世絵、サイズも色彩も物質感もものたりなさが残る。

2010/04/24(土)(村田真)

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美しき挑発:レンピッカ展

会期:2010/03/06~2010/05/09

Bunkamuraザ・ミュージアム[東京都]

タマラ・ド・レンピッカといえば、1980年ごろパルコ出版から画集が出たのを覚えているが、それ以前もそれ以後もほとんど名前を聞いたことがない。たまたまその当時の「パルコ文化」と方向性が合致したのだろう。たしかに1920年代の彼女の作品を見ると、ファッショナブルなアールデコ様式でいかにも「時代と寝た」先端的な女性画家といった趣があり、それはそれで興味深い反面、あっさり消費されてしまいかねない薄さも感じてしまうのだ。いわば時代のイラストレーションに堕してしまったというか。そこが80年代的であったと、いまいえる。でも30年代以降(それが彼女の人生の大半を占める)の作品を見ると、時代におもねったり取り残されたり自己模倣を繰り返したりして、それが逆に時代とは隔絶したある種の壮絶さを生み出してもいる。2010年のいま彼女に注目するなら、30年代以降の作品だろう。

2010/04/22(木)(村田真)

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