artscapeレビュー

道先潤「a Breath」

2024年01月15日号

会期:2023/12/19~2024/01/08

ニコンサロン[東京都]

見ていて、すっと心が静まり、安らかな気分にさせてくれるいい写真展だった。道先潤は1984年、山口県の生まれ。写真家のアシスタントなどを経て独立し、2018~19年に写真「1_WALL」展で連続入賞するなど、自分の世界を少しずつ深めてきた。

今回の個展では、福島県会津と東京都という二つの土地を巡るストーリーが展開していく。身近な人物たちのポートレート、「住んでいる土地、目の前の景色」を淡々と撮影したスナップ写真がバランスよく配置され、「静けさ」という今回のテーマにふさわしい雰囲気が醸し出されている。写真の選択と組み方が的確なので、知らず知らずのうちに道先の呼吸(a Breath)と同化していくように感じた。

だがこのままだと、当たり障りのない「生の記録」として自足してしまいそうでもある。もう少し、思い入れの強い写真、自分自身にも見る者にも波風が立つような写真を加えていくべきではないだろうか。「静けさ」とは程遠いノイズや不協和音も入り混じりそうだが、そうすることが本作をひと回り大きな作品に仕上げていくには必要になるのではないかと思う。真面目すぎるほど真面目に「その者を形成する根底的な“何か”」を追求していく道先の姿勢には、とても好感が持てる。それだけに、もう一歩先に踏み出せば、より高い評価を得ることができるようになるのではないだろうか。


道先潤「a Breath」:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2023/20231219_ns.html

2024/01/05(金)(飯沢耕太郎)

2024年01月15日号の
artscapeレビュー