artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

絵師100人展 京都篇

会期:2012/03/17~2012/06/24

京都国際マンガミュージアム[京都府]

「現代絵師100人」と聞いて、期待していただけに少々がっかり。マンガやアニメ、ゲームのキャラクタデザインの領域で活躍するアーティスト105人が「日本」をテーマに描き下ろした作品を紹介する展覧会だという。しかし、小さい顔に大きな目、制服や着物を身にまとった手足の細長い少女たち、いわゆる「萌えの対象たち」が現代の日本文化やキャラクタデザインだと言っているようでさびしく、しかもキャプションを隠せばどの絵もほぼ同じで作家の個性さえ見当たらず、面白くもない。貧弱という言葉だけが頭をよぎった。[金相美]

2012/04/07(土)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00016695.json s 10029115

What's 電子書籍?──新しい読書の時間がやってきた

会期:2012/03/31~2012/05/27

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

米国ではアマゾンがKindleを発売して可能性が拡がり、アップルのiPadによりその利用が一気に拡大した電子書籍であるが、日本ではようやく既存の出版社が重い腰を上げようとしている。事態がなかなか進展しない背景には著作権保護や流通形態の変革を巡る議論があるが、印刷会社にとっても大きな問題であろう。この展覧会は、読むという行為に焦点を当ててて、印刷媒体と電子書籍のそれぞれの特性と相異を来場者に体験してもらおうという試みである。
 展示は、電子書籍の過去、現在、未来に分かれている。電子書籍はけっして新しい存在ではなく、PCの普及とともに、モニタ上でテキストを読むという行為は一般化してゆく。「過去」のコーナーには、Macintosh Plusや、PC上でテキストを読むためのソフトウェア「T-Time」、各社の電子手帳、携帯電話、草創期の電子ブックなどが展示され、機器の小型化、軽量化の歴史を追う。「現在」のコーナーでは、書籍、新聞、雑誌、写真集、辞書、図鑑、コミック等々について、印刷媒体と電子媒体で同じコンテンツが並べられており、実際にタブレットやスマートフォンを操作して、現時点での両者の違いを徹底的に比較できる。そして「未来」では、電子ペーパーなどの新しい技術や、読書体験の共有などのコミュニケーションにおける革新の可能性が示唆される。
 印刷媒体と電子書籍の比較という視点は、凸版印刷が運営する印刷博物館P&Pギャラリーの企画ならではのものであると思う。展示を見て改めて印象に残ったのは、小説や辞書、写真集、雑誌など、コンテンツの性格により、同じ印刷媒体といえども構造が異なり、電子媒体との親和性も異なっているという点である。私見では、もっとも早く電子化が進んだコンテンツは辞書。専用端末が先行し、オンライン版がそれに続いているので昨今の電子書籍の展開とはやや文脈が異なるが、検索性という点で電子媒体との親和性が高い。また今回の展示にはなかったが、検索の利便性もあって電子化が進んでいるもうひとつの分野は、マニュアルである。分厚い紙のマニュアルがなくなり、ソフトウエアのパッケージは劇的にコンパクトになった。逆に、電子書籍への移行がよく見えないのがファッション誌などの雑誌である。展示されていたコンテンツはいずれも誌面をそのまま変換したもので、タブレットでは読めるが、スマートフォンの小さな画面で見ることは困難である(そもそも対応していないものもある)。情報伝達という側面では、今後ウェブ記事のようなスタイルに変わるのかもしれないが、そうなると写真やイラスト、縦組み・横組みのテキストを自在に駆使した神業のようなレイアウトは、失われていくことになろう。
 すでに辞書の世界ではブリタニカ百科事典が書籍版の廃止を表明している。経済的には、印刷媒体と電子書籍を両立させていくことは困難なのだ。紙の書籍がすべて消えてしまうことはないと思うが、木版、活版同様、私たちは印刷そのものが「伝統工芸化」する様を目撃しているのかもしれない。[新川徳彦]

2012/04/04(水)(SYNK)

artscapeレビュー /relation/e_00017245.json s 10029116

編集のススメ──世界にひとつの本棚

会期:2012/03/23~2012/05/06

ATELIER MUJI[東京都]

本棚を見ればその人がわかる、と言われる。趣味の本、思想の本、娯楽の本……その人が何に、どのように関心を持っているのか、本棚は無言で語ってくれる。この展覧会でギャラリーに展示されているのは3つの本棚。それぞれに収められているのは、3人の編集者たち──鈴木芳雄(『ブルータス』エディトリアルコーディネーター)、矢野優(『新潮』編集長)、岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)──の蔵書である。「編集」という仕事に焦点を当てたこの展覧会は、編集者の蔵書を公開することで、彼らが日常生活のなかでどのような情報に接しているのかを知ろうという興味深い試みである。
 ギャラリーの中央には、編集を知り実践するための本(ブックコーディネーター中西孝之によるセレクション)が置かれており、手に取ることができる。だれもが日常生活のなかで多様な情報に接するなかで、取捨選択を行なっているが、それを体系的に行なうための技術を学ぶための本である。3つの本棚には編集者とその知人からのコメント。本棚の本は背表紙を見ることができるだけであるが、それでも読み込まれていることがわかる本、丁寧に保存されている本、複数の同じ本など、本の使われかた、読まれかたがうかがえる。また、3人の本棚をならべることで、それぞれの関心のありかたや、読書のスタイルの違いも見えてくる。
 この企画では、無印良品の大きな本棚ひとつ分(段ボール20箱分)の蔵書をそれぞれの編集者が提供している。もちろん、これが蔵書のすべてではないだろう。となると、この本棚がどのように「編集」されたのかも知りたくなる。そして会期は5月6日までの1カ月半。ここに運ばれた本は、そのあいだ手元になくても困らない本ばかりなのか。本当にその編集者を知るためには、この本棚には何がないのか、なぜそれが選ばれなかったのかについてもよく考える必要があるかもしれない。[新川徳彦]

関連レビュー

Thought in Japan──700通のエアメール「瀬底恒が結んだ世界と日本」
堀内誠一──旅と絵本とデザインと

2012/03/28(水)(SYNK)

高橋涼子個展──MIND CONTROL

会期:2012/03/17~2012/04/28

studio J[大阪府]

高橋涼子は8年前から人毛を素材とした作品をつくり続けている。今回の個展も、人毛で覆われた球体をモティーフとしたロングネックレスやモビール、人毛でつくった筆で描かれたドローイングなどが並んだ。黒い髪もあれば、金髪やシャーベット色の髪もある[図1]。
 素材が人毛であると知って抵抗感を示す人もいるというが、高橋にとって人毛は「この世で一番美しいもの」だという。このように言うとき、彼女は人毛をあくまでコンテクストを排除した「素材」としてみなしているのだろうか。そういう目でみると、高橋の作品において人毛は、その独特の光沢や質感を作品に付与するための単なる素材であると解釈できなくもない。ネックレスをつくる球体は、人毛だけでできているような外見とは裏腹に、発泡スチロールの球状の芯に毛髪を巻いたものである[図2]。すなわち、球状の芯に金メッキを施すかわりに、毛髪が放つ輝きを求めて人毛による「メッキ」を施しているといえなくもない。
 考えてみれば、われわれが日常着るウールやシルクの服も生ける物の毛や包皮であるはずなのに、人間の髪となると人は鬘以外の用途にそれが使われることに抵抗を感じる。これは多分に、人間にとって人毛とは、それが自らの一部であった記憶を持つものだからだろう。人の毛髪を用いる作家はこれまでにも存在したが、彼ら彼女らの作品ではたいてい「記憶」のような人間の髪のシニフィエが作品を形作るがゆえに、抵抗なく受け入れられてきた。
 実のところ、高橋のモビールの毛髪の球体が生じさせる後れ毛も、それがかつて女性の一部であったことを想起させる。つまり、彼女の作品の人毛は作品制作の材料としての「素材」であるとみなされうる一方で、その次元に完全に還元されることを望むものではない。ネックレスを黒く美しく輝かせる素材としての人毛、そして、身体の一部であった記憶を残すかのような表現……タイトルの「MIND CONTROL」が示唆するように、ふたつの想反する極の狭間に危うく立とうとする繊細な感性の存在がここに感じられる。4月28日まで開催。[橋本啓子]

1──something sweets, 2012, mixed media
2──mind control, 2012, mixed media

2012/03/21(水)(SYNK)

昔のくらし 今のくらし

会期:2012/01/24~2012/04/01

川崎市市民ミュージアム[神奈川県]

室内アンテナのついた四本足の白黒テレビ、青い羽の扇風機、畳にちゃぶ台、黒電話、足踏み式ミシン……。ミュージアム附属レストランではクジラの竜田揚げなど、昔の給食メニューを食べることができる。ついつい「三丁目の夕日」的な感傷に浸ってしまうけれども、本来の趣旨は小学校3年生が学ぶ「昔の道具とくらし」カリキュラムのための企画として毎年この時期に開催されている展覧会で、衣・食・住の移り変わりを実物資料で辿る。会期中には小学生の団体が訪れるが、おそらく大人たちとはまったく異なる感想を抱くことだろう。
 授業のカリキュラムとしてつくられているので、コアとなる部分は毎年同じなのだが、それだけではなく、年ごとに異なる展示が設けられている。昨年の特集は学校給食。今年の特集テーマはふたつ。ひとつは夏を涼しく、冬を暖かく過ごすための生活の工夫。夏の団扇や扇風機、蚊帳や陶器の枕、冬の火鉢、湯たんぽや懐炉など。もうひとつは、病気や災害に備えるもの。消防団が使用していた手押しポンプ、纏、厄除けのお守りや薬箱など。いずれも昨年の東日本大震災をふまえて、節電や防災の知恵や工夫を過去に学ぼうというものである。歴史を見る眼は時代と密接に結びついている。そして危機にあってこそ歴史に学ぶことは多いのである。[新川徳彦]

2012/03/17(土)(SYNK)