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artscapeレビュー

伊東豊雄+藤本壮介+平田晃久+佐藤淳『20XXの建築原理へ』

2009年10月15日号

発行所:INAX出版

発行日:2009年9月30日

伊東豊雄と3人の若手建築家・構造家による、都心再開発の架空プロジェクトのドキュメント。藤本壮介、平田晃久、佐藤淳が、2008年から複数回の研究会を重ね、青山病院跡地に未来の巨大建築を描き出す。敷地は約100メートル四方の巨大なもの。伊東のディレクションで、新しい高層建築のタイプを探求する方向へと研究会は向かう。研究会の成果をプレゼンテーションし、最終講評会には山本理顕、藤森照信も加わった。本書の出版にあわせ、INAX:GINZA7Fクリエイティブ・スペースでは、同名の展覧会が開催された(2009年9月24日から2009年10月10日)。またmosakiの大西正紀と田中元子が編集を協力している。
さて、「20XXの建築原理へ」と題されたこの架空プロジェクト、想像以上にスリリングなスタディとその変遷が興味深かった。平田と藤本の両者が「巨木」や「樹状のもの」にともに関心を持っていたことから、途中までは二人の方向性はある種似ていたが、最終段階で方向性が分かれる。平田は襞状の空間性により注目し、5つの「樹木性Tree-ness」の性質を持つTree-ness Cityを提案。いわば「樹木としての都市」である。そして根-枝-葉というように、繋がっているけれども見た目が異なるような複数のシステムを接合して、いったいであるけれども複数のシステムが混在しているような建築を目指す。一方、藤本は、「樹木」とともに途中から浮かび続けていた「山」のイメージへと舵を取り、「山的なる都市」を提案。この背景には、水田などが雪で覆われたときに、どこでも歩ける「面としての道」が立ち現われたという、藤本の空間移動感覚の原体験があったという。空間での「体験」を重視するため、システムやルールといったものにしばられない何かを目指し、建築と対極にあるものを目指したという。あえていえば、平田が「建築」指向、藤本が「空間」指向とでもいえようか。しかし単純な対立ではなく、そういった違いをすべて包摂しながら最後に現われてくるような、指向の違いであろう。新しい建築原理の萌芽を見るような刺激的なプロジェクトだった。

2009/09/30(水)(松田達)

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