artscapeレビュー
インベカヲリ★「始まりに向けての青」
2014年12月15日号
会期:2014/10/29~2014/11/10
ABG(AMERICA-BASHI GALLERY)[東京都]
2013年刊行の「やっぱ月帰るわ、私。」(赤々舎)で、目覚ましい成果を披露したインベカヲリ★が、新作13点を発表した。といっても、身近な女性モデルたちがそれぞれの思いを吐露するようなパフォーマンスを展開し、インベがそれを記録していくという作品のスタイルは前作をそのまま踏襲している。展覧会のタイトルが示すように、今回は次の「始まりに向けて」の助走という意味合いが強いのではないだろうか。
今回、彼女の作品を見てあらためて感じたのは、被写体となる女性たちのバックグラウンド、そして彼女たちがなぜそのようなパフォーマンスをしているのかが、写真を見ているだけではなかなか伝わりにくいということだ。1点1点の作品には、タイトルがついているのだが、ややひねりを効かせたものが多く、やはりそのあたりクリアーには見えてこない。たとえば、今回の展示作品の中に「詩集からはじまる」というタイトルがついた、ゴミが一面にちらばっている部屋の中でポーズをとる少女の写真がある。そのタイトルの背景には、詩人だった祖父が祖母に詩集を送ったことから、バラバラになっていた一家が再会したという物語が隠されているようだ。
つまり、それぞれの写真に思いがけないストーリーが付随しているわけで、むしろそれらを明るみに出していった方がいいのではないかとも思った。写真とテキスト(むしろ小説に近い)をうまく組み合わせていくと、何か次の展開が見えてくるのではないだろうか。
2014/11/10(月)(飯沢耕太郎)