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美術に関するレビュー/プレビュー

印刷と美術のあいだ──キヨッソーネとフォンタネージと明治の日本

会期:2014/10/18~2015/01/12

印刷博物館[東京都]

明治初期の日本の美術に大きな足跡を残したふたりの「お雇い外国人」、キヨッソーネとフォンタネージに焦点を当てた興味深い展覧会。ただし印刷博物館でやるので印刷(版画)がメインの展示になっている。キヨッソーネは紙幣印刷の技術を指導しに明治8(1875)年に来日、大蔵省に勤務し、エングレーヴィングによる精密な紙幣の原版制作と後進の指導に努めた。一方フォンタネージは翌9年に来日し、日本初の美術学校である工部美術学校の画学の教師に就任。この学校は文部省ではなく工部省の管轄だったことからもわかるように、実用的な技術者養成を目的としていた。実際には浅井忠、五姓田義松、小山正太郎、高橋源吉(由一の息子)ら黒田清輝以前の明治美術を担った画家を輩出したが、しかし生徒のなかには印刷局から派遣されて図学を学んだ人たちもいたという。フォンタネージは体調を崩してわずか2年で帰国したが、6年の任期をまっとうしていたらどこまで教え、生徒たちもどこまで伸びただろう。日本の近代美術は大きく変わっていたかもしれないな。展示は、キヨッソーネが来日前に手がけた金壱円券から、日本で制作した紙幣、切手、印紙、株券、大久保利通や木戸孝允、明治天皇像まで、またフォンタネージは、本人が描いた風景の写生と生徒の模写、フォンタネージがスイス亡命時代に手がけたリトグラフ、生徒たちのおもに印刷メディアに載った作品などさまざま。でもキヨッソーネはいいとして、このテーマでフォンタネージを持ってくるのはちょっと無理があるような。

2014/10/14(火)(村田真)

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日本国宝展

会期:2014/10/11~2014/12/14

東京国立博物館[東京都]

紀元前3000-2000年の土偶から18-19世紀の琉球の衣装まで100点以上の出展(うち半数以上は展示替え)。特別出品の正倉院宝物(国宝指定の対象外)を除いてすべて国宝というからスゴイ。てか、さすがに平安時代の仏画や絵巻物は年季入ってるだけにスゴイと思うけど、あとはどこがスゴイのかよくわからない。最後のほうにあった高さ5メートルを超す元興寺極楽坊五重小塔は、美術品ではなく建造物の国宝。なのに持ってきちゃったっていう意味でスゴイ。あ、もうひとつスゴイのがあった。《一字蓮台法華経 普賢菩薩勧発品》という平安時代のお経で、一文字一文字の下に蓮華が描かれているのだ。文字を蓮華の上に載せるというのは、当時それだけ言葉というものが実体感をともなっていたことの証だろう。スゴイというよりちょっとコワイ。ミュージアムショップでは、5体の土偶をかたどった「土偶ビスケット」とか、粒チョコのなかに縄文のヴィーナス型のチョコが埋もれてる「発掘チョコレート」とか、国宝を食っちゃうお土産も販売。

2014/10/14(火)(村田真)

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いろいろ、そうそう─田中岑展

会期:2014/09/06~2014/11/03

川崎市市民ミュージアム 企画展示室2[神奈川県]

田中岑は川崎にアトリエをかまえていた画家。1970年代に胃潰瘍で入院してから室内画を描くようになり、それらの窓の表現が興味深い。オレンジの空間にぽっかりと開いた長方形の青。1990年代の扉シリーズも同様。黄色い光のなかに浮かぶ、台形の赤い扉。

2014/10/13(月)(五十嵐太郎)

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石元泰博写真展 この素晴らしき世界

会期:2014/10/12~2015/04/05

高知県立美術館 石元泰博展示室[高知県]

2012年に石元泰博が亡くなったあと、その遺品の数々は高知県立美術館に寄贈された。既に生前の2006年に「石元写真作品及び写真ネガフィルム等を高知県立美術館に収蔵し、作品目録を作成し、独自のコレクションとして、その整理、保存、展示などに努めることとする」という契約書がとり交わされていたのだという。その数は写真プリント約35,000枚。フィルム約15万枚、著書約5,000冊、他にカメラ一式、家具・調度品などにも及んでいる。あわせて、石元の著作権も高知県立美術館に移譲されることになった。
それを受けて、2013年に美術館内に石元泰博フォトセンターが開設され、常設の石元泰博展示室の改修工事が進められた。今回の「石元泰博写真展 この素晴らしき世界」は、そのオープニング記念展ということになる。
展示は3期(各期約30点)に分けられていて、その第1期にあたる今回は、インスティテュート・オブ・デザイン在学中の1948~52年にシカゴで撮影された「街」のシリーズから、2006年の「シブヤ、シブヤ」まで30点が展示された。石元の作品世界を過不足なく概観できるいい展覧会で、今後の展示も大いに期待できそうだ。また展示室内には、石元の自宅マンションの部屋を椅子や、テーブルごと移設したスペースが設けられており、愛用のカメラの展示なども含めて、彼の作品世界がどんな環境で形をとっていったのかが実感できるようになっていた。
石元泰博フォトセンターの今後の活動は、写真家の遺作・遺品をアーカイブとしてどのように保存・活用していくのかという、大事なモデルケースになると思う。その成果が実り多いものとなっていくことを期待したい。

2014/10/12(日)(飯沢耕太郎)

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小野田賢三──Vacant / Occupied

会期:2014/09/06~2014/10/19

ya-gins[群馬県]

群馬県在住のアーティスト、小野田賢三の個展。会場近隣の洋装店「ニャムコム」の店内にある商品やディスプレイ、備品などをすべて展示会場内に移設した。通常は白い壁の空間が、鮮やかな色彩とおびただしい物量で埋め尽くされたわけだ。むろん店舗をまるごと移設したので、主人も展示会場に常駐し、通常どおり営業している。ギャラリーがショップに様変わりした、その劇的なインパクトが面白い。
一方、もとの「ニャムコム」には、がらんとした空間をそのままに、小野田によるミニマムな作品が展示された。薄暗い照明の下、床にはいくつものビールケースが積み上げられ、奥の暗がりからは、かすかにノイズのような音が漏れてくる。聞けば、ビールケースはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色でそろえたという。すなわちCMYKの4原色によって構成された、日本の極めて庶民的なミニマル・アートというわけだ。
庶民的なミニマル・アートと言えば、かつて岡本光博が、誰もが知るお茶漬けの素の商品パッケージの図柄を連想させる作品を発表したことがあるが、小野田の場合、作品の焦点は表象批判や制度批判にあるというより、むしろ空間と作品の転位にあるように思われた。ギャラリーのホワイトキューブの中にビールケースの作品を展示しても、中庸なミニマル・アートとして見過ごされていたに違いない。日本家屋の、しかももぬけの殻の中で、そこにふさわしいミニマルなかたちを提示したからこそ、庶民的なミニマル・アートが成立したのだ。
作品と空間は分かち難く結びついている。美術館や画廊の空間で展示されるミニマル・アートが、現代美術の歴史を学ぶ者にとっての「教科書」の役割以上の同時代性を失ってしまったいま、小野田が空間と作品を入れ替え編集しながら見せた庶民的なミニマル・アートは、ミニマル・アートを今日的に蘇生させる延命策として考えられなくもない。だが、廃墟のような空間の強い印象から言えば、むしろミニマル・アートを庶民の地平に引き降ろすヴァンダリズムとして考えた方がしっくりする。ビールケースの物体は、その手つきを思えば、ミニマル・アートの伝統や文脈を適切に踏まえた美術作品というより、街のストリートに書き殴られたグラフィティーや幼児が楽しむ積み木に近いからだ。
ことはミニマル・アートにとどまらない。あらゆるアートを引きずり降ろす作業が待望される。

2014/10/12(日)(福住廉)