artscapeレビュー
印刷と美術のあいだ──キヨッソーネとフォンタネージと明治の日本
2014年11月15日号
会期:2014/10/18~2015/01/12
印刷博物館[東京都]
明治初期の日本の美術に大きな足跡を残したふたりの「お雇い外国人」、キヨッソーネとフォンタネージに焦点を当てた興味深い展覧会。ただし印刷博物館でやるので印刷(版画)がメインの展示になっている。キヨッソーネは紙幣印刷の技術を指導しに明治8(1875)年に来日、大蔵省に勤務し、エングレーヴィングによる精密な紙幣の原版制作と後進の指導に努めた。一方フォンタネージは翌9年に来日し、日本初の美術学校である工部美術学校の画学の教師に就任。この学校は文部省ではなく工部省の管轄だったことからもわかるように、実用的な技術者養成を目的としていた。実際には浅井忠、五姓田義松、小山正太郎、高橋源吉(由一の息子)ら黒田清輝以前の明治美術を担った画家を輩出したが、しかし生徒のなかには印刷局から派遣されて図学を学んだ人たちもいたという。フォンタネージは体調を崩してわずか2年で帰国したが、6年の任期をまっとうしていたらどこまで教え、生徒たちもどこまで伸びただろう。日本の近代美術は大きく変わっていたかもしれないな。展示は、キヨッソーネが来日前に手がけた金壱円券から、日本で制作した紙幣、切手、印紙、株券、大久保利通や木戸孝允、明治天皇像まで、またフォンタネージは、本人が描いた風景の写生と生徒の模写、フォンタネージがスイス亡命時代に手がけたリトグラフ、生徒たちのおもに印刷メディアに載った作品などさまざま。でもキヨッソーネはいいとして、このテーマでフォンタネージを持ってくるのはちょっと無理があるような。
2014/10/14(火)(村田真)