2019年07月15日号
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artscapeレビュー

小野田賢三──Vacant / Occupied

2014年11月01日号

会期:2014/09/06~2014/10/19

ya-gins[群馬県]

群馬県在住のアーティスト、小野田賢三の個展。会場近隣の洋装店「ニャムコム」の店内にある商品やディスプレイ、備品などをすべて展示会場内に移設した。通常は白い壁の空間が、鮮やかな色彩とおびただしい物量で埋め尽くされたわけだ。むろん店舗をまるごと移設したので、主人も展示会場に常駐し、通常どおり営業している。ギャラリーがショップに様変わりした、その劇的なインパクトが面白い。
一方、もとの「ニャムコム」には、がらんとした空間をそのままに、小野田によるミニマムな作品が展示された。薄暗い照明の下、床にはいくつものビールケースが積み上げられ、奥の暗がりからは、かすかにノイズのような音が漏れてくる。聞けば、ビールケースはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色でそろえたという。すなわちCMYKの4原色によって構成された、日本の極めて庶民的なミニマル・アートというわけだ。
庶民的なミニマル・アートと言えば、かつて岡本光博が、誰もが知るお茶漬けの素の商品パッケージの図柄を連想させる作品を発表したことがあるが、小野田の場合、作品の焦点は表象批判や制度批判にあるというより、むしろ空間と作品の転位にあるように思われた。ギャラリーのホワイトキューブの中にビールケースの作品を展示しても、中庸なミニマル・アートとして見過ごされていたに違いない。日本家屋の、しかももぬけの殻の中で、そこにふさわしいミニマルなかたちを提示したからこそ、庶民的なミニマル・アートが成立したのだ。
作品と空間は分かち難く結びついている。美術館や画廊の空間で展示されるミニマル・アートが、現代美術の歴史を学ぶ者にとっての「教科書」の役割以上の同時代性を失ってしまったいま、小野田が空間と作品を入れ替え編集しながら見せた庶民的なミニマル・アートは、ミニマル・アートを今日的に蘇生させる延命策として考えられなくもない。だが、廃墟のような空間の強い印象から言えば、むしろミニマル・アートを庶民の地平に引き降ろすヴァンダリズムとして考えた方がしっくりする。ビールケースの物体は、その手つきを思えば、ミニマル・アートの伝統や文脈を適切に踏まえた美術作品というより、街のストリートに書き殴られたグラフィティーや幼児が楽しむ積み木に近いからだ。
ことはミニマル・アートにとどまらない。あらゆるアートを引きずり降ろす作業が待望される。

2014/10/12(日)(福住廉)

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