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小野啓『NEW TEXT』

2014年02月15日号

発行所:赤々舎

発行日:2013年12月01日

1977年、京都府生まれの小野啓は、立命館大学経済学部を卒業後、2002年頃から現役の高校生のポートレートを撮影し始めた。「大人でも子供でもない年代」の高校生たちに向き合うことで、「人としての根本」を探り出したいと考えたからだ。大学を卒業して社会に出る頃、誰しも自分自身の人間形成の時期だった高校時代が気になってくるものだ。小野はそのナチュラルな気持ちの動きを、写真家としての営みにストレートに結びつけていったということだろう。
それらの写真は「青い光」というタイトルでいくつかの写真コンペに出品され、2006年にはビジュアルアーツフォトアワード大賞を受賞し、同名の写真集として刊行された。だが、小野の撮影はさらに続けられる。途中からは雑誌やフライヤーを使ってモデルを募集して、メールのやりとりで撮影の日取りを決めるようになった。モデルたちの居住範囲も関西エリアだけでなく、全国各地に広がっていく。結局、高校生たちを写した撮影総数は2013年までの11年間で550人にまで増えていた。
小野はそれらをまとめた写真集を刊行しようと考えるが、それには小野自身にも出版社にも大きなリスクがかかる。その問題をクリアーするために2012年から「『NEW TEXT』をつくって届けるためのプロジェクト」を開始した。
5,000円で写真集を予約すると、1冊は手元に届き、もう1冊が全国の図書館や学校など希望する場所に寄贈されるというものだ。参加者が500名を超えて、このプロジェクトの目標は無事達成され、赤々舎から『NEW TEXT』が刊行された。ハードカバー、344ページの堂々たる造本の写真集である(デザインは鈴木成一)。
高校生たちのこの時期にしかない一瞬の輝き(あるいは翳り)を捉えるために小野が用いたのは、決して奇をてらった撮り方ではない。撮影場所を丁寧に選び、6×7判のカラーフィルムで細部までしっかりと画面におさめていく。中間距離の写真が多いが、時にはクローズアップ、逆にやや遠くから撮影する場合もある。「笑わないこと」だけが唯一のルールと言えるだろう。解釈を押しつけるのではなく、写真から何を読み取るのかは読者に委ねるという姿勢が清々しい。小説家の朝井リョウが「全ページが物語の表紙」という言葉を帯に寄せているが、まさに言い得て妙ではないだろうか。

2014/01/05(日)(飯沢耕太郎)

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