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五十嵐太郎編『建築・都市ブックガイド21世紀』

2010年04月15日号

発行所:彰国社

発行日:2009年4月10日

主に90年代以降に出版された、建築・都市に関する主要な本を紹介するブックガイド。編者の五十嵐太郎によれば、20世紀の建築・都市関連書物を100冊集めた『READING:1 建築の書物/都市の書物』(INAX出版、1999)と対になる本であるという。本書は20人の執筆者がおり、筆者もそのひとりに加えていただいているが、その2/3以上を五十嵐が書いている。おそらく単著としても出すことができたのであろうが、それでも足りない部分を原稿依頼したというので、本書の充実度は想像できよう。ところで、五十嵐太郎編によるこの種のアンソロジー系総括本は(過去の『20世紀建築研究』など多数)、決してある水準以上のものを取り上げるというような形式で網羅しているわけではない。何故この本がここに、何故この作品がここに入っているの? という驚きが、必ずいくつか散りばめられている。それが完璧にまとめ上げた教科書的な本との決定的な違いを生み出しているのではないか。例えば、高祖岩三郎の『流体都市を構築せよ!』、またその道では有名な森博嗣の推理小説など、一見、ほかとカテゴリーが違いそうなものも、五十嵐はフラットに取り上げる。しかし、それこそが編者としての五十嵐のオリジナリティを生み出している。だからこの本は、じっくり読んだ後に、もう一度、そういえばこの本はどうして取り上げられたのか、と考えてみる面白さも残っているのだ。

2010/03/31(水)(松田達)

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