artscapeレビュー
銅版画家 清原啓子の宇宙
2015年01月15日号
会期:2014/11/30~2014/12/14
八王子市夢美術館[東京都]
1987年に31歳で亡くなった銅版画家・清原啓子(1955-1987)。その作品集
の刊行に合わせて八王子市夢美術館で展覧会が開催された。作品集に収録されているのは彼女が版画家として活動した10年間に残した30点の作品(未完成作を含む)、詩、素描(下絵)であるが、展覧会ではそれらに加えて試刷、制作ノート、原版、そして彼女の蔵書が入った書棚が出品された。「久生十蘭、埴谷雄高、三島由紀夫など神秘的、耽美的な傾向の文学を愛し、その『物語性』にこだわった精緻で眩惑的な作品」と紹介文にあるとおり、画面一杯に描き込まれた植物、生物、建築、異形の人々などの幻想的なテーマと、扱われたモチーフ、そして彼女が選んだ技法とその技巧に驚嘆する。鉛筆によって描かれた下絵のディテールと精度にも驚くばかりだ。一つひとつの作品に掛けられたエネルギーにも圧倒される。しかも清原は作品を発表した後でもしばしば作品に手を入れ続けていたという。《魔都霧譚》(1987)については制作過程がわかる20枚の試刷とそれぞれについて記した制作ノートのコピーが示されている。未完成の作品もまた彼女の創作過程を示すものであり、とても興味深く見た。2週間の会期は短い。気になりながら見逃してしまった人も多かったのではないだろうか。[新川徳彦]2014/12/10(水)(SYNK)
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