2021年04月15日号
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天神万華鏡──常盤山文庫所蔵 天神コレクションより

2015年01月15日号

会期:2014/12/09~2015/01/25

渋谷区立松濤美術館[東京都]

学問の神様として知られる菅原道真(845-903)、すなわち天神様は、古来よりさまざまな姿で絵画、版画に描かれてきた。「天神万華鏡展」は、多面的な姿、万華鏡のような存在としての天神の変遷をたどる企画。基本的なその姿は貴族の正装である束帯。神となってからも生前の道真の姿で描かれている。背景には伝説に因んで梅や松が描かれ、道真が詠んだとされる和歌や漢詩が配される。顔や表情はさまざまで、そこだけを見ると同一の人物には見えないが、ともに描かれた小道具によって天神であることがわかる。「渡唐天神」と呼ばれる立ち姿を描いた一連の絵画は、天神様が中国に渡り禅の名僧・無準師範から袈裟を授けられたという伝説に基づくもの。無準は南宋時代(1127-1279)の人で事実としてはありえないのだが、室町時代に画像と逸話が伝わって流布したという。道服を着用し頭巾を被り袈裟袋を下げ、顔は唐人風。梅の枝を持っていることで天神とわかる。江戸時代には『菅原伝授手習鑑』の舞台、役者絵を通じて道真の姿が流布し、また亀戸天満宮や湯島天満宮はたびたび浮世絵に描かれており、天神様が人々に身近な存在であったことを物語る。
今回の展覧会は常盤山文庫が所蔵する天神コレクションからの出品である。常盤山文庫は実業家・菅原通済(1894-1981)が昭和18年に創設した書画骨董のコレクションで、天神様を集めたのは通済の父・菅原恒覧(1859-1940)である。恒覧は工部大学校に学んだ鉄道技師で、鉄道工業株式会社の創設者。余部橋梁や丹那トンネルの建設を請け負ったことで知られている。真偽の程は定かではないが菅原道真の35代目の子孫と伝えられており、晩年には道真・天神関連のさまざまな文書、絵画を蒐集し、1929(昭和4)年には『菅公御伝記』という本も出版している。本展図録に序文を寄せられた島尾新・学習院大学教授によれば、恒覧が収集した絵が収められた箱の蓋には分類や所蔵番号のほかに評価を表す「松」「竹」「梅」の印が押されているが、ふつうと違って「梅」が最上位であり、次が「松」、「竹」が最下位となっているのだという。そうしたコレクターの視点を意識しながら見るのもまた楽しい。なお、来館者には「学業応援企画」として鉛筆セットを配布している(なくなり次第終了とのこと)。[新川徳彦]

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