artscapeレビュー

人生、いろどり

2012年11月01日号

会期:2012/09/15

シネスイッチ銀座[東京都]

「葉っぱ」で年商2億を成し遂げた実話をもとにした劇映画。徳島県上勝町を舞台に、おばあちゃんたちが自発的に新商売に踏み出した無謀な試みと挫折、そして成功の物語を描く。それぞれ性格の異なる役柄を演じた吉行和子と中尾ミエ、そしてとりわけ富司純子の演技がすばらしい。限界集落や老人といった現代社会の周縁が叛乱するという痛快な物語もおもしろい。
だが、この映画を凡百のサクセス・ストーリーから明確に一線を画しているのは、それが登場人物の内側に広がる陰を巧みに描写しているからだ。女社会に率先されることをよしとしない男社会の家父長的な面子、女社会のなかでも決して他人に明かせない恥の意識。心の奥底に本音を畳み込みながら、それぞれ男社会と女社会に帰属することで保たれる共同体の均衡。この映画の視点は、かねてから日本社会の秩序を再生産してきた自己の内部と外部に通底するこの「制度」を、外側から是非を問うのではなく、あくまでも内側から生環境として描くリアリズムに置かれている。
かたちこそ異なるとはいえ、都市社会における共同体の条件もこれとおおむね大差ないことを考えると、成功するにせよ失敗するにせよ、私たちが生きるうえで格闘しなければならないのは、他者を蹴落とすマネーゲームのルールなどではなく、みずからにまとわりつくこの暗い陰なのだ。その陰があってこそ、彩りが鮮やかに輝くことを描いた傑作である。

2012/10/01(月)(福住廉)

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