artscapeレビュー

『タンタンの冒険──ユニコーン号の秘密』

2012年01月15日号

会期:2011/12/01

TOHOシネマズ梅田ほか[大阪府]

「Tintinologist」という言葉があるという。「タンタン論者」くらいの意味で、この造語を掲載している辞典もあるそうだ。本映画の原作である、コミック『タンタンの冒険旅行』の話だ。そのタンタン論者たちは単なるタンタンオタクなどではなく、作品に込められた歴史や思想を徹底的に分析し研究するのだという。作品のスケールと、その深さが垣間見られるところだ。このコミックシリーズは、ベルギーの漫画家エルジェ(Hergé、1907-1983)が、少年記者タンタンと愛犬スノーウィが世界を飛び回り、繰り広げる冒険を描いたもの。1929年に子ども向けの新聞に初掲載された、子どもを読者に想定した作品だが、次第に人気が出て一般紙や雑誌の連載がはじまり、単行本が刊行された。現在は世界80カ国で翻訳、出版され、2億部以上売れている。このコミックの一番の魅力はなんといってもキャラクター。まだ海外旅行が容易ではなかった時代、世界中のさまざまな国を訪れて冒険をするという基本コンセプトも十分魅力的だったはずだが、手軽に海外旅行ができるようになった今日においても変わらず愛される理由を挙げるとしたら、やはりキャラクターの力、キャラクターがもつ魅力にほかならない。このコミックを、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化したのが、現在公開中の『タンタンの冒険──ユニコーン号の秘密』だ。スピルバーグは、1983年にエルジェが他界すると、すぐにこのコミックの著作権を購入、映画化を試みるが、技術的な限界を感じていったん断念、著作権を手放した。スピルバーグが再び動き出したのは精緻なパフォーマンス・キャプチャーを目にしてからのことで、2002年に版権を買い戻し、映画制作に着手する。パフォーマンス・キャプチャーとは、俳優の演技をコンピューターに取り組む技術のこと。なぜスピルバーグは実写でもCGでもない、また精緻なパフォーマンス・キャプチャーにこだわったのか。それはキャラクターのイメージを壊さず再現したかったからだと監督自身が明かしている。ストーリーも原作から大きく外れておらず、ある意味スピルバーグの映画であって、スピルバーグの映画ではないかもしれない。ただ躍動感あふれる画面からは目が離せない。さすがスピルバーグだ。また時代感を感じさせる巧みな編集と、ソウル・バス★1風のタイトルロールはオシャレすぎて、思わず微笑んでしまった。

★1──ソウル・バス(Saul Bass、1920-1996):アメリカのグラフィックデザイナー。映画のタイトルデザイン分野を確立させた人物とも言われる

[金相美]

2011/12/01(木)(SYNK)

2012年01月15日号の
artscapeレビュー