artscapeレビュー
イエロー・ケーキ クリーンなエネルギーという嘘
2012年01月15日号
会期:2012/01/28
渋谷アップリンク[東京都]
昨今、原発についてのドキュメンタリー映画の上映が相次いでいるが、この映画もそのひとつ。原子力発電に必要な天然ウランの採掘に焦点を当て、旧東ドイツやナミビア、オーストラリア、カナダの採掘現場にカメラが入っていく。古い資料に登場する人物にインタビューしたり、空撮によって取材拒否された採掘場を撮影するなど、粘り強い取材態度は評価できる。けれども、全体的に大仰な音楽が耳障りであり、肝心の放射線の種類や線量の単位を詳らかにしないなど、不満が残らないわけではない。とはいえ、ウランを100%完全に輸入に頼っている日本で、その採掘現場の実態がまったく知られていないことを考えれば、やはりこれは見ておく必要がある映画だといえる。旧東ドイツの採掘現場跡地にそびえ立つボタ山や、アボリジニの土地を奪って造成されたオーストラリアの採掘場で垂れ流される排水からは、いまも放射線が発せられているという。放射性廃棄物の行く末を追跡した『100,000年後の安全』とあわせて見ると、結局のところ、原子力エネルギーは人間の手には負えないという厳然たる事実を明快に理解することができるはずだ。これから手を引くことができるかどうかに、人間が人間たりうるかがかかっている。
2011/12/13(火)(福住廉)