artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

平松伸之 展

会期:2011/09/03~2011/09/24

CAS[大阪府]

平松伸之の作品は、自分の記憶が正しければ過去に一度しか見たことがない。2000年に国立国際美術館で行なわれた「空間体験《国立国際美術館》への6人のオマージュ」だ。その時、平松は美術館の展示室を駐車場へと変貌させる荒技を見せ、多くの人を驚愕させた。私自身、当時の記憶が鮮明だったので、今度は何をしでかすのかと期待して出かけたのだった。しかし、展示されていたのはカラオケ屋で見かけるような安っぽいミュージックビデオであった。作曲・演奏共に平松自身で、クオリティは決して低くない。しかし、ヒット曲のエッセンスをそこかしこに注入した楽曲にはオリジナリティがなく、聞けば聞くほどその無意味さに脱力感が広がるのだ。このえも言われぬ感情は何だ? 11年前の作品とは全然傾向が違ったが、やはりこの人はただ者ではないと、改めて確信した。

2011/09/05(月)(小吹隆文)

ハウスメイド

会期:2011/08/27

TOHO CINEMAS シャンテ[東京都]

韓国映画の十八番といえば、何よりもまず復讐劇。本作も家政婦として働く主人公の女による雇い主への復讐を描いた映画だが、これまでの豊かな伝統には到底及ばない中途半端な代物に終わってしまった。物語の構成はいかにも直線的で、人物描写も甘く、復讐の表現形式もほとほと理解に苦しむものだ。たとえばパク・チャヌク監督による『復讐者に憐れみを』『OLD BOY』『親切なクムジャさん』にあるすぐれた構成力や展開力、キャラクターの面白さやユーモアは微塵も見られないから、結果として際立つのは、だらだらと間延びした時間と主人公の女の信じ難いほどの鈍感さ、そして成人映画のような濡れ場のみ。せめて昼メロのような抑揚があれば、まだ見るに耐えたかもしれないが、こんな体たらくでは復讐の想像力を鍛え上げることもままならない。ようするに、復讐というかたちによって人間を描写することに失敗しているわけだ。放射性廃棄物を撒き散らしたばかりか、それらを体内に取り入れながら生活することを余儀なくされている現在、「人間」の根拠は以前にも増して疑われつつあるのだから、復讐によって「人間」の輪郭と内実を再確認する芸術表現は今後ますます必要とされるにちがいない。

2011/09/01(木)(福住廉)

ツリー・オブ・ライフ

会期:2011/08/12

丸の内ルーブル[東京都]

テレンス・マリック監督、ブラッド・ピットとショーン・ペン主演による映画。厳格で世俗的な父親と慈愛に満ちた母親のもとで暮らす3人兄弟の物語だ。典型的な白人中流家庭を舞台にしていることから、いわゆる「ホームドラマ」であることは確かだが、「神に生きるか、世俗に生きるか」を問う思想性や随所に織り込まれる宇宙的で壮大な映像が、この映画に人間の悲喜劇を描く「ホームドラマ」以上の厚みと深みをもたらしている。だからといって難解な思想映画や映像美に拘泥するアート映画というわけでもなく、あくまでも人間の暮らしの基盤である「ホーム」を出発点としながら、神と世俗のあいだを切り開くところに、テレンス・マリックのねらいがあるように思われた。邸宅の内外を嬉々として走り回る少年たちの身体動作や、理由もなく弟を痛めつける兄の幼い狂気、近隣の邸宅に忍び込む戦慄と高揚感。熟年を迎えた主人公が少年時代を回想するシーンには、誰もが思い当たる節があるはずだ。そのようにして見る者にとっての「ホーム」の記憶をそれぞれ甦らせながら、「神か世俗か」を改めて問い直すこと、つまり現在の生き方をもう一度再考させることが、この映画の醍醐味である。

2011/09/01(木)(福住廉)

『コクリコ坂から』

会期:2011/07/16

全国東宝系[全国]

なんでこの作品を映画化したのか、疑問に思っていたが、漫画版とかなり違うことに驚かされる。いや、だからこそ映画として成立したと言えるだろう。建築がもうひとつの登場人物になっていたが、その描写も正確だ。ただし、木島安史がリノベーションした孤風院を想起させる建物「カルチエラタン」は、『千と千尋の神隠し』における湯屋のような存在に変容している。原作にはまったくない、学生による明治建築の保存運動が面白い。とはいえ、過去をノスタルジーで美化する『always』の嫌らしさもない。映画に描かれるカルチエの雰囲気は、かつて二年間を過ごした東大駒場寮に残っていた。懐かしい。

2011/08/14(日)(五十嵐太郎)

プレビュー:『女と銃と荒野の麺屋』

会期:2011/09/17

シネマライズほか[東京都]

コーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』をチャン・イーモウがリメイクした中国映画。最小限の登場人物によって綴られる寓話的な物語が小気味よいのはもちろん、テキサスから中国の荒野へと切り替えられた舞台が何より美しい。波打つかのような荒野の赤い土と澄み切った群青の空、そして煌煌と光り輝く月。馬の蹄が乾いた空気を振るわせる。シュルレアリスムのような幻想的な世界に、人間の欲望と滑稽を凝縮した物語映画である。

2011/08/02(火)(福住廉)