artscapeレビュー
ハウスメイド
2011年10月01日号
会期:2011/08/27
TOHO CINEMAS シャンテ[東京都]
韓国映画の十八番といえば、何よりもまず復讐劇。本作も家政婦として働く主人公の女による雇い主への復讐を描いた映画だが、これまでの豊かな伝統には到底及ばない中途半端な代物に終わってしまった。物語の構成はいかにも直線的で、人物描写も甘く、復讐の表現形式もほとほと理解に苦しむものだ。たとえばパク・チャヌク監督による『復讐者に憐れみを』『OLD BOY』『親切なクムジャさん』にあるすぐれた構成力や展開力、キャラクターの面白さやユーモアは微塵も見られないから、結果として際立つのは、だらだらと間延びした時間と主人公の女の信じ難いほどの鈍感さ、そして成人映画のような濡れ場のみ。せめて昼メロのような抑揚があれば、まだ見るに耐えたかもしれないが、こんな体たらくでは復讐の想像力を鍛え上げることもままならない。ようするに、復讐というかたちによって人間を描写することに失敗しているわけだ。放射性廃棄物を撒き散らしたばかりか、それらを体内に取り入れながら生活することを余儀なくされている現在、「人間」の根拠は以前にも増して疑われつつあるのだから、復讐によって「人間」の輪郭と内実を再確認する芸術表現は今後ますます必要とされるにちがいない。
2011/09/01(木)(福住廉)