artscapeレビュー
2011年07月01日号のレビュー/プレビュー
文士の肖像
会期:2011/04/25~2011/07/01
ノエビア銀座ギャラリー[東京都]
昭和を代表する写真家である濱谷浩、林忠彦、田沼武能が文士を撮影した肖像写真を見せる展覧会。小規模とはいえ、同じく昭和に活躍した文士の肖像写真はいずれも味わいのあるものばかりで見応えがあった。その味が撮影の技術に由来しているのか、それとも被写体となった文豪たちの顔の造作や所作の美しさに起因しているのか、よくわからなかったが、おそらく両方が混在しているのだろう。写真の傍らに添付された撮影時のエピソードを綴ったテキストも、その味わいによりいっそう深みを増していたようだ。自宅の玄関口にかけた札に「世の中で人の来るこそうれしけれ、とはいふもののお前ではなし」と記した内田百聞の言語的感性こそ、無駄口だけで安易に他者とつながりたがり、自己目的化したコミュニケーションに現を抜かしている現代人に、もっとも欠落した品性である。言葉の密度を取り返したい。
2011/06/09(木)(福住廉)
6.11新宿・原発やめろデモ!!!!!!!
会期:2011/06/11
新宿一帯[東京都]
4月10日の高円寺、5月7日の渋谷に続く、「原発やめろデモ」の第三弾。3月11日からちょうど3か月のこの日、全国各地でいっせいに脱原発デモがおこなわれたが、新宿では2万人が集まり、西新宿から歌舞伎町などを3時間以上かけてゆっくりと練り歩いた。日本随一の繁華街を舞台としていたせいか、高円寺や渋谷と比べて街の反応は独特の緊張感を伴っていたが、それでも参加者たちは原発への違和感や拒絶感を路上から粘り強くアピールした。この日のデモのクライマックスは、ゴール地点となった新宿アルタ前。大量の警察官が囲い込むなか、デモの参加者も野次馬も混然一体となった群集が形成され、この広場はある種非日常的な、騒然とした空気に包まれた。ドラムサークルが絶え間なく激しいビートを刻み、アクティヴィストやミュージシャンらが車上からスピーチや音楽を披露し、それらを大勢の聴衆が熱心に聞き入っていた。学生運動やアングラ文化が盛り上がっていた頃の新宿もこんな雰囲気だったのだろうか。だからといって無法地帯と化していたわけでは決してなく、聴衆は群集ならではの熱を肌で感じながらも、きわめて冷静に集会を楽しんでいた。やがて主催団体のひとつである「素人の乱」の松本哉と山下陽光がアルタの巨大なオーロラ・ヴィジョンを指差すと、その壁面にはプロジェクターで投影された「NO NUKES」という文字が躍り、続いて日本政府への5つの要求が映し出された。すなわち、「稼働中の原発の停止」「定期検査等で停止している原発を再稼動しないこと」「原発の増設中止」「児童の許容被曝量20ミリシーベルト/年の完全撤回」「原子力発電から自然エネルギー発電への政策転換」。政治家に何も期待することができず、イタリアのように国民投票という意思表明の機会にすら恵まれていない私たちにとって、このプロジェクションはみずからの欲望や意思を重ねて投影することができる貴重な表現形式だった。この集会を締める際、司会を務めた山下陽光が「おれたちがエネルギーだ」という言葉とともに全員でジャンプすることを提案したが、これもプロジェクターと同じように集団で共有できる表現形式のひとつだった。デモだけが集団的な表現形式であるわけではない。身体や技術、言葉、音楽を動員することによって、今後も次々と新たな形式が開発されていくだろう。いまだにデモとアートを切り離す傾向があるが、ここには間違いなくアートの問題が含まれているのである。
2011/06/11(土)(福住廉)
SOURA-SAISAI 西村みはる・前川奈緒美
会期:2011/06/13~2011/06/18
Oギャラリーeyes[大阪府]
珍しい展覧会タイトルは、自分がこれまでに培ってきた感覚を信じて、画面上で自身の価値観を徹底的に探し求めることから名付けられたという(漢字では「捜羅再再」と表記する)。西村と前川は、共に描く行為のなかから空間をつくり上げていくタイプの画家だ。どちらの作品からもピンと張りつめた気迫が感じられ、響き合う緊張感に身が引き締まる思いがした。必然性のある2人展であった。
2011/06/13(月)(小吹隆文)
中島奈津子 展
会期:2011/06/03~2011/06/19
アートゾーン神楽岡[京都府]
女性、鳥、蝶、花、パンプスなどをモチーフに、パステルトーンで彩られたフェミニンな風合いの作品。それらは決して私好みではないが、木版凹版の繊細な線描には大いに感心させられた。技法自体は知っていたが、実物を見たのは初めてかもしれない。まさかこんなに柔らかな線が木版画で表現できるとは。木版画イコールざっくりした素朴な線と思い込んでいたので、軽いショックを受けた。
2011/06/14(火)(小吹隆文)
キッズ・オールライト
会期:2011/04/29
TOHOシネマズシャンテ[東京都]
レズビアンのカップルが同じ男性から精子提供を受けてそれぞれ出産、その息子と娘の4人で構成された家族の物語。設定からして複雑きわまるが、ここにドナーの男性が介入してくることによって、家族が分解するほどの亀裂が生じ、さらに問題が込み入ってくる。ところが、この映画がおもしろいのは、深刻で複雑な問題を抱えながらも、ユーモアによって軽く脱力させるポイントを随所に忍ばせているところだ。つい欲望に負けてしまう哀しい性や悪気もなく口の悪い言葉を吐く無邪気な感性。特殊な人間性というより、身に覚えのある心理だからこそ、観客は笑い飛ばすことができる。あえて物語の緊張を解きほぐすような仕掛けを用意しているところに、核家族の狂気をただ深刻に描くことに終始しがちな日本の家族映画とは異なる素地を見たような気がした。
2011/06/14(火)(福住廉)