artscapeレビュー
2011年07月01日号のレビュー/プレビュー
森口ゆたか──あなたの心に手をさしのべて
会期:2011/04/29~2011/06/26
徳島県立近代美術館[徳島県]
2006年以降に制作された近作4点と、大阪市立大学医学部附属病院とのプロジェクトで制作された1点、本展のために制作された新作1点の計6点で構成。いずれも映像や写真を駆使したインスタレーションだ。人間の手や絡み合う紐をモチーフにした作品からは、人を愛しいと思う気持ちやその交感が滲み出ており、現代美術の歴史やルールを知らない人が見ても素直に受け入れられるだろう。近作の4点も、以前関西の画廊や美術館で展示されたときとは異なるセッティングが施されており、鑑賞経験がある私も新鮮な気持ちで接することができた。派手さはないが、味わい深い展覧会だ。
2011/06/19(日)(小吹隆文)
プレビュー:堂島リバービエンナーレ2011 “ECOSOPHIA”~アートと建築~
会期:2011/07/23~2011/08/21
堂島リバーフォーラム[大阪府]
2009年に行われた第1回展では、南條史生のキュレーションにより現代社会の諸相を切り取った作品を紹介した同展。2回目の今回は飯田高誉をアーティスティック・ディレクターに迎え、アートと建築を融合した企画展が行なわれる。キーワードは「ECOSOPHIA」。これは哲学者のフェリックス・ガタリが提唱した概念で、自然環境・社会環境・人間心理の3方向から将来の地球のあり方を考察したものだ。展覧会は、アニッシュ・カプーアの建築的な作品の模型約30点を中央に配し、周囲に「地圏」「水圏」「気圏」の3ゾーンが入り混じるように展開される。参加作家は、杉本博司、チームラボ、森万里子、マーティン・クリード、大庭大介、隈研吾、磯崎新、柳原照弘、永山祐子など。アーティストは作品を出品し、建築家はそれらのプレゼンテーションを行なう。また、音楽家の坂本龍一も、本展のために書き下ろした約16分の楽曲で参加する。
2011/06/20(月)(小吹隆文)
プレビュー:視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション
会期:2011/07/20~2011/09/04
京都国立近代美術館[京都府]
絵画、写真、彫刻、映画、グラフィック・デザイン、舞台美術などの多岐にわたる活動や、バウハウスの教師として知られるモホイ=ナジ・ラースロー。彼の全体像を紹介する、日本初の回顧展だ。遺族所蔵の未公開作品を含むコレクションを中心に、約300点を展覧。ハンガリー時代の絵画、キネティック彫刻の代表作《ライト・スペース・モデュレーター》など、貴重な作品が多数含まれる。
2011/06/20(月)(小吹隆文)
プレビュー:ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展
京都文化博物館 別館ホール[京都府]
会期:2011/07/22~08/14(前期)、10/07~10/23(後期)
数々のアニメ映画で知られ、シュルレアリストでもあるヤン・シュヴァンクマイエルと、同じく美術家で、ヤンの映像作品の美術や衣装を手がけていたエヴァ(妻、故人)の展覧会。2部構成になっており、前期では新装版の表紙のために描いた《アリス》や、ヤンが下絵を描き、茨城と京都の彫り師と摺り師が制作した木版画を展示。木版画は、原画、下絵、制作過程が伝わる版木と順序刷りも併せて出品される。後期は、映像作品にまつわる作品群の展示が行なわれる。ほかには、現在制作中のラフカディオ・ハーンの『怪談』のための挿絵や、細江英公が撮影したポートレートの展示も予定されている。
2011/06/20(月)(小吹隆文)
藝術学関連学会連合第6回公開シンポジウム「アートとデザイン──その分離と融合」
会期:2011/06/18
大阪大学会館講堂[大阪府]
「アートとデザイン──その分離と融合」と題するシンポジウム(主催:藝術学関連学会連合)が大阪大学で開催された。筆者はパネリストの一人として参加したので、その概要を紹介したい。開催にあたり、黒川威人氏(金城大学)は、デザイン学と芸術学の協同により、アートとデザインの関係性を歴史的に見通すことの意義について述べた。「藝術」といえば、「ファイン・アート」がすぐさま想起されるけれども、美を藝術に結び付けるのは近代特有の考え方であって、それ以前に共有されてきた「アート」がある。「術=arts」はどのようにして「藝術」と「機械的技術」に区分されたのか? 藤田治彦氏(大阪大学)は、イタリアの「ディセーニョ」やフランスの「デッサン」と「ファイン・アート」との関係などを、アカデミーを事例として、「デザイン」概念が拡張される歴史的経緯・展望を論じた。次に歴史篇として、筆者がまず、19世紀英国の官立デザイン学校をとりあげて、アートからデザインが分離する状況とそれに纏わる諸問題について報告した。森仁史氏(金沢美術工芸大学)は、日本人の芸術観(「芸」概念)と「美術」概念が移植される様相を詳述し、日本におけるアートとデザインの連関は「工芸」を起点としていると指摘した。そして実践篇では、竹原あき子氏(和光大学)が「日本的なるもの」の探求をキーワードに日本の現代デザインにおける展望を熱く語った。最後に、ゲストの黒川雅之氏(黒川雅之建築設計事務所)が、デザインとはなにかを考えるために構想した〈デザインの樹〉──アートとテクノロジーの融合である「建築」を幹として広がる図式──を提示し、デザインの魅力を高らかに謳いあげた。藝術学関連学会連合のシンポジウムで、「デザイン」がおもなテーマとなるのは、今回が初めてである。現在、社会で急速に意味・使用が拡大している「デザイン」と、変化を遂げ境界が融解しつつある「アート」。これを契機として、デザインおよびアート研究双方のためにも、議論の場が継続的にもたれるよう期待したい。[竹内有子]
2011/06/20(月)(SYNK)