artscapeレビュー
2009年04月01日号のレビュー/プレビュー
山海塾「金柑少年」
会期:2009/03/07~2009/03/08
東京芸術劇場 中ホール[東京都]
戦時や終戦を想起させる学生服を着た少年の場面、クジャクとともに踊る場面、小さい「やっこさん」のごとき格好で踊る場面、ラストの赤い逆三角形のボードの下で踊り手が逆さに吊される場面、印象に残る場面は多いし、そこに遍く行き渡る独自の美意識や身体訓練の達成度など、見所は随所にあった。反復する動きが多くてそう思わせるのか、はじまった瞬間ショッキングだった光景は、次第に美しさへと昇華される。これをどう捉えるかが、本作と言うよりも山海塾というものへの評価の分かれ目だろう。ともかくセンスがいい(オシャレ)、とくに選曲。大駱駝艦が吉祥寺ならば、山海塾は目黒や代官山。ひと頃のカフェやラウンジのような音楽のチョイス、そう思えばラストの宙吊りはミラーボールに見えなくもない? 世の流れに応じた演出(厳密に言えば90年代的かも)が目立った。
山海塾:http://www.sankaijuku.com/
2009/03/07(木)(木村覚)
now here, nowhere
会期:2009/03/04~2009/03/22
京都芸術センター[大阪府]
現実の断片をモチーフとしながら、現実とは異なる層を垣間見せたり、作品を見る眼差しそのものを問う作品が紹介された。出品作家は、苅谷昌江、中居真理、馬場晋作、藤井俊治、前田朋子、水木塁の6名。いずれの作品もレベルが高く見応えがあったが、とりわけ印象深かったのは水木塁の《Ripe of color ♯Narcussus》。紙焼き写真を漂白剤の入った液体に入れ、印画紙に定着していたイメージが剥離する瞬間をとらえた写真作品で、イメージがそれのみで存在する刹那の美を見事に捉えていた。
2009/03/08(日)(小吹隆文)
UNLIMITED
会期:2009/03/01~2009/03/15
アプリュス(A+)[東京都]
遠藤一郎をはじめ、淺井裕介、泉太郎、齋藤祐平、鈴木彩香、栗原森元、栗山斉、ダビ、藤原彩人、村田峰紀、柳原絵夢の11人(組)が参加したグループ展。会場は荒川区のリサイクルセンターの一角で、高い天井と広い床面積を誇る、なんとも贅沢な空間。ただ、準備期間が短かったせいか、作品の出来は全体的に低調で、どうやら空間をもてあましていたようだ。そうしたなか、便所の便器に映像を投影した泉太郎はさすがに抜群の空間構成力を発揮していたが、もうひとり、身体を使ったパフォーマンスで気を吐いていたのが、村田峰紀。この日は、照明の当たらない空間の隅に座って、黙々とポッキーを食べ続けるパフォーマンスを披露した。ポリポリと美味しそうに食べてるなあ、と思ってよくよく見てみたら……、おい! おまえ鉛筆の芯食ってんじゃねぇか!! 口の周りの黒い汚れは、チョコじゃなくて黒鉛だった。してやられた。
2009/03/08(日)(福住廉)
喜びの海
会期:2009/03/07~2009/03/08
アサヒ・アートスクエア[東京都]
華道家の上野雄次とダンサーの関さなえによる公演の二日目。会場の中央に高々と組み上げられた鉄パイプのタワーに上野がよじ登り、上から順に解体してき、そのタワーの麓に置かれた黒いマットの上で関が寝たまま踊り続けるという構成。花生けとダンスのコラボレーションでありながら、両者がいずれも花生けとダンスの規範に徹底的に背き続ける潔さが、心地よい。なにしろ上野は花を生けるどころか、工事現場の解体業者よろしく、組み外した鉄パイプを次から次へと床に放り投げ、その金属の激突音が空間を切り裂くなか、ダンスの基本的な所作である「立つ」ことの美しさを放棄したかのように、関が水平的な動きを繰り返しているのだから。これはいったい何なのか。暴力的な恐怖と分類しがたい認識的な混乱を味わっていると、いつのまにか天井に移動した上野が横たわる関に向って赤いバラを落とし、しばらくすると、今度は大量の腐葉土を投入。特殊部隊のようにロープで降りてきた上野が透明なラッピングテープで土に埋まった関の身体をマットごと包み込んだところで、緊張の舞台は終了した。
2009/03/08(日)(福住廉)
安室奈美恵「BEST FICTION TOUR」
会期:2009/03/07~2009/03/08
横浜アリーナ[神奈川県]
休憩なしの140分。45万人を動員する巨大ツアー。3曲目だったか「New Look」の冒頭、古のミュージカル映画のような巨大ハイヒールの上でポーズをとる安室に、会場の女子たちが一斉に「かわいいー」とため息混じりの叫び声を上げた。あの瞬間が、このライブのハイライトだった。舞台両脇のスクリーンに映る安室は、圧倒的にかわいく、その輝きは安室があらためて手にした勝利を饒舌に語っていた。新曲「Dr.」に典型的な、多様な要素を濃縮状態で繋いでゆく複雑で刺激的な楽曲は、万人受けするポップスとは言いがたい。けれども、だからこそファンは突っ走る安室にどうにか食らいついてゆきたいと熱望するのだろうし、だからこそ安室はいま「憧れの存在」なのだろう。「歌謡曲歌手」というステレオタイプでいまの安室を括るのはちょっとずれている。次々と耳に飛び込んでくる多国籍な音楽イメージ、ヒップ・ホップはもちろんのこと、過去のポップス、ゴス的なテイスト、アフリカン、チアーやマーチングや沖縄民謡など。それが、きちんと「安室奈美恵」というブランドイメージをまとって繰り出されるのだから「ついていきます!」とつい漏らしてしまいたくなるというもの。いや、かつて「歌謡曲歌手」とはそういう存在だったのであって、80~90年代のアイドルが振りまいた素人性の魅力の背後に隠れてしまった歌謡曲歌手本来の力が、いま安室奈美恵によって復活しているということなのかも知れない。ノーMCで踊りっぱなし歌いっぱなしのひとり「アムロ・ランド」状態に徹底的に打ちのめされた観客に向けて、安室はかわいく手を振り、最後に一言だけ「また遊びに来てねー」と語りかけた。観客はまるでミッキーマウスに応えるみたいに、遠くの安室に大きく手を振り返した。
2009/03/08(木)(木村覚)