artscapeレビュー
2009年04月01日号のレビュー/プレビュー
新国誠一の《具体詩》 詩と美術のあいだに
会期:2008/12/06~2009/03/22
国立国際美術館[大阪府]
視覚詩と音声詩によって抒情詩を相対化した新国誠一の回顧展。グラフィカルに配置した漢字を並べたり、新国本人が朗読した平仮名と片仮名と数字を混在させた詩を聞かせたり、小規模ながらも、新国のユニークな創作活動を一望する堅実な展示になっている。美術と詩、あるいは音楽の領域を横断する前衛芸術にはちがいないが、日本語という誰もが知る言語を素材にしているせいか、鑑賞者をサディスティックにいたぶるような前衛芸術のたちの悪さは微塵も見られない。むしろ、それらの大半は端的におもしろいし、笑えるものであり、もっと見たいと思わせるものばかりだ。おびただしい数の「畳」という漢字を四畳半のかたちに並べ立て、その中心に「炉」の漢字をひとつだけ置いたり、「縞」という漢字を縦方向に無数に並べることによって、その文字と行間のあいだの縞模様を表現したり、意味伝達の手段だけに貶められる文字をその機能から解放するというより、その機能を満たしつつ、文字という具体的な物質の力を前面化させる、その手腕がとてつもなくすばらしい。この展観によって新国の創作活動が再評価されることはまちがいないだろうが、それを前衛詩の現在に生産的に反映させるだけではあまりにももったいない。というのも、新国が夢中になっていた文字的想像力は、部分的ではあるにせよ、たとえば現在のアスキーアートや「脳内メーカー」、あるいは「『タモリ』と『夕刊』は似ている」と鋭く指摘したことがあるトリオフォーによる「NOPPIN新聞」にも共有されているからだ。新国誠一を起源にすえることによって、「物質としての文字」の魅力をアピールする、広い意味でのアート活動が、今後ますます発展することが期待できるのではないだろうか。
2009/03/20(金)(福住廉)
Yusuke Asai“ぐらぐらの岩”
会期:2009/02/21~2009/03/29
graf media gm[グラフメディア・ジーエム][大阪府]
「Masking Plant」や「泥絵」で知られる淺井裕介の新作展。会場内に設置されている小屋の内部を泥絵で埋め尽くすとともに、彼が参加した大阪・梅香でのアートプロジェクト「このはな咲かせましょう」の制作風景を撮影した写真などを発表した。おしゃれ空間に遠慮したわけではないだろうが、これまでの淺井の活動からすると、若干大人しい印象は否めない。もっと大きく、もっと容量のある空間で、たっぷりと時間をかけて制作した作品を見てみたい。
2009/03/20(金)(福住廉)
このはな咲かせましょう
会期:2008/12/05~2008/12/07
此花区梅香・四貫島エリア[大阪府]
昨年末に大阪の梅香町でのアートプロジェクトに参加した淺井裕介が、同地に長期滞在しながら制作した作品がいまも見れる。道路の白線用の素材を植物のかたちに切り抜き、それらを路上やマンション、廃屋の壁面に焼きつけた。同じ手法で制作した「とまれ」という文字の、なんと生き生きとしていることか。なかでも、未来美術家の遠藤一郎とともに制作した《このはな未来へ》は、商店街の壁面に描いた大作だが、長い板を並べた壁面にバーナーで焦げ目をつけながら線を描くなど、技法に工夫を凝らしながら迫力の画面を作り出した。
2009/03/20(金)(福住廉)
梅田宏明 新作公演
会期:2009/03/20~2009/03/22
横浜赤レンガ倉庫[神奈川県]
床面を四角く枠取る無機質な照明のラインが、漆黒の闇の中央に佇む梅田を淡く照らす。映像作品《MONTEVIDEOAKI》を含む三本を並べた新作公演の良し悪しは、梅田のソロ舞台「Haptic」が典型的に示す、こうした「エレクトロニクス」「テクノロジー」といったものへのやや懐かしくも感じさせる「かっこいい」イメージを、見る側がどう評価するかにかかっていよう。懐かしいなどとぼくが言ってしまうのは、身体とエレクトロニクスをシンプルかつダイレクトな仕方で繋ぐ真鍋大度のクレイジーなアプローチにリアリティを感じる感性こそ現在だ、という時代認識による。観客の視覚・聴覚に鋭く切り込む照明と音響に、ダンサーは痙攣的に反応している(リアクション)ようで、結構踊って(アクション)いる。女性ダンサー三人を振り付けた《centrifugal》はそうでもなかったけれども、梅田のソロはストリート系ダンスのヴォキャブラリーを高速化したもののように見える。そうした高速運動ができる技量を見せたり「かっこいい」イメージを提供したりするだけでは表現として説得力を獲得しえない、そんな過酷な地平にいまの表現者は立たされている、などと思って見ていた。
梅田宏明:http://www.hiroakiumeda.com/
2009/03/22(日)(木村覚)