artscapeレビュー

2010年04月01日号のレビュー/プレビュー

キリコ個展「旦那 is ニート」

会期:2010/03/01~2010/03/06

Port Gallery T[大阪府]

8年間の交際の後結婚した夫がニートになり、離婚へと至る過程を捉えた写真作品。スライドショー形式で上映された。夫婦関係が冷えていく過程では抜き差しならない局面もあったと思われるが、激情のシーンはなく抑えた描写が淡々と続いた。自身が新たな人生を始めるための通過儀礼としてつくられた作品なのかもしれない。本作は'09年の「写真新世紀」で荒木経惟に高く評価され佳作に入選したそうだが、文字通りの私写真なのでそれも納得である。なお、本展は4月に東京の企画ギャラリー明るい部屋でも開催される。

2010/03/01(月)(小吹隆文)

横浜市民ギャラリーをかけぬけたアヴァンギャルドたち

会期:2010/03/02~2010/03/23

横浜市民ギャラリー[神奈川県]

「全日本アンデパンダン」や「今日の作家展」など、1964年以来さまざまな前衛美術に発表の場を提供してきた横浜市民ギャラリーのコレクション展。池田龍雄、岡本太郎、草間彌生、斎藤義重、菅木志雄など、戦後の日本美術を代表する美術家たちによる作品、およそ40点が展示された。なかでもとりわけ鮮やかな魅力を放っていたのが、吉仲太造の《碑》(1964)。新聞の株式欄や不動産欄を切り貼りした大きなコラージュ作品で、眼を凝らして見ると、現在とは比べものにならないほどの低廉な価格に驚かされる。一見すると乱雑に貼り重ねられているようだが、全体を見通してみれば、新聞紙の断片が規則的に並んでおり、美しい模様を描いていることに気づかされる。株式と不動産という記号から、この作品は「資本主義経済そのもののデスマスク」(大岡信)とか「戦後日本の鎮魂のモニュメント」(光田由里)などといかにも大袈裟に評価されているが、それほど話を高尚なレベルに飛躍させなくても、これは誰がどう見ても、明らかに地図である。それは、貼りつけられた新聞紙が江戸切絵図のように上下左右バラバラな方向に向けられているからであり、なおかつ全体的には吉仲が生まれ育った京都の街並みを彷彿させるからだ。規則正しい模様は、御所を中心に碁盤目状に路地が行き交う京都の都市構造と明らかに対応している。数字と記号が充溢したこの街の中で、おまえはいったいどこに立っているのか? 吉仲の作品は静かにそう問い掛けているのだ。

2010/03/02(火)(福住廉)

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快快『Y時のはなし』

会期:2010/03/04~2010/03/06

VACANT[東京都]

夏休みの学童保育。フリーターの指導員(男)と小学校教師(女)、2人の小学生が主たる登場人物。後でわかるのだが、小学生の1人は里子としてここに来ている。人形と役者とが交替して彼らを演じるのは、本作のもととなった小指値時代の作品『R時のはなし』と同様。今回際だっていたのは、登場人物たちがひとつの場に集いながらも別々の人生の進路を生きているように、その役を語る者たちに関しても別々のレイヤー上にある者たち(人形、役者)が交差しながら物語を展開させているということ(ところで、ぼくが観劇した日にトークゲストとして招かれていた坂口恭平がまさに「レイヤー」をキーワードに公演の感想を話していたのは印象的だった)。複数のレイヤーが重なりあってぼくたちの社会やぼくたちの認識が出来上がっていることを快快は演出の方法を通して伝えてくれる。きわめてポップなそのやり方をぼくは「あて振り」と称したことがある(『Review House 01』にて)。例えば、学童保育のカレーパーティでビンゴ大会が行なわれた模様を指導員が語ろうとすると途端に彼はビンゴマシーンに変貌し、口から勢いよくピンポン球を飛ばし次々と番号を告げてゆく。「ビンゴマシーン」は通常の演劇ならば、台詞のなかでその言葉が発せられるだけだろうし、物語を伝える仕事としてはそれで充分かもしれない。表象する必要が必ずしもない「ビンゴマシーン」を快快はあえて表象する。この「あえて」の感じが楽しい。けれど、複数のレイヤー(つまり、台詞のレイヤーと遂行のレイヤー)がなにゆえに並列しているのかというポイントに演劇的なトライアルが仕組めるはずであり、だとすればレイヤーの交点でどんな接触の火花が起こりうるのかと期待したが、その仕掛けをぼくはうまく感じとれなかったようだ。無駄に(?)「あえて」遂行するそのサーヴィス精神には、ともかくも毎度ながら感動させられる。なんだかアジアの伝統的な村祭りで人形芝居を見ている時のような気持ちになった。作品上演はもちろん、手作りの料理を振る舞ったりDJプレイや音楽演奏の企画も並べたりととても賑やかな快快の公演は、東京という村の一種の村祭りと見てみることもできる、などと思わされた。

2010/03/04(木)(木村覚)

笹岡敬 展 Reflex 2010/WATER 2010

Reflex 2010
2010/03/02~2010/03/07
立体ギャラリー射手座[京都府]
WATER 2010
2010/03/06~2010/03/19
CAS[大阪府]

笹岡敬が京都と大阪で2週連続個展を開催。京都の作品は、赤、黄、青のパトライト(回転灯)がランダムに速度を変化させながら発光・回転するするインスタレーションで、ミニマル音楽にも似た麻痺的な刺激が得られるものだった。大阪の作品は、天井から青と黄の電球が垂らされ、床には満面の水をたたえた円筒のガラス容器が置かれているというもの。床に映り込むガラス容器越しの屈折光や、壁面に映る観客の影が美しかった。タイプこそ違えど、光学原理を応用して静謐な空間を作り上げた点で両作品は共通する。また、最小の装備で大きな効果を引き出す点も同様だ。笹岡の冴えた手腕を再確認した。

2010/03/04(木)・2010/03/08(月)(小吹隆文)

岩井優 パーククリーニング─もし晴れたら、公園で─[小金井アートフル・ジャック!プログラム]

会期:2010/03/01~2010/03/07

シャトー小金井[東京都]

さまざまなところでさまざまなクリーニングを手掛けている岩井優の個展。今回は空き店舗の空間内に公園から持ち込んだ大量の落ち葉を敷き詰めた。会場の奥には落ち葉の山がそびえ立ち、訪れた子どもたちにとっては格好の遊び場だったが、周囲には色とりどりの液体が入れられた梅酒の赤フタ瓶が置かれていて、それらはよく見ると数々のゴミを液体洗剤に漬けたものだった。タイトルに暗示されているような牧歌的な雰囲気と毒々しい文明の利器。その両極を丸ごとひっくるめたリアルな美学を、岩井はまさぐりだそうとしているようだ。

2010/03/05(金)(福住廉)

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