artscapeレビュー

2010年06月01日号のレビュー/プレビュー

佐藤雅晴 Bye Bye Come On

会期:2010/05/08~2010/05/29

イムラアートギャラリー[京都府]

エスカレーターを昇り続ける女性の後ろ姿のアニメ、林の中でウサギとクマの着ぐるみが手招きをするアニメ、そしてスチール作品が5点と映像がもう1点出品された。実写映像をフォトショップ上でトレースし、ペンタブレットで描いた作品は、初期段階で実写データを消去し、イメージだけが画面に定着している。そのためだろうか、現実と非現実の中間を見せられているような不安定な感覚がぬぐえない。2008年に「液晶絵画」という展覧会があったが、佐藤の作品もまさにその一例だ。今後はこうした表現がどんどん増加するのであろう。

2010/05/11(火)(小吹隆文)

青年団『革命日記』

会期:2010/05/02~2010/05/16

こまばアゴラ劇場[東京都]

革命の理念が現実的な人間関係の交錯に揺さぶられる。アジトのマンションに集合した活動家たち。近々実行予定のテロ計画を確認する最中に、近所の主婦たちや事情をよく知らない協力者などが現われ、会議はなかなか思うように進まない。グループ間の人間(男女)関係もいさかいの種となる。こらえきれず若い女は絶叫し激怒した。そのハイライトの最中、なによりも驚かされたのは女が観客に背中を向けていたことだ。絶叫とともにみるみる赤くなる首や顔の輪郭あたりの白い肌。しかし、どんな表情をしているのかは観客に見えない。いや、正座した後ろ向きの姿全体がこの瞬間、女の顔になっていた、というべきなのかもしれない。目鼻立ちははっきりとしていないのだけれどただ行き場のない怒りだけは充満している顔としての背中。ただし、こうした大きな爆発のみならず、そこここで頻繁に起こる小さな軋轢も見所だった。いまさらいうまでもないことだろうけれど、平田オリザの力を見る者が感じるのは、なによりも人間関係の微細なバランスの変化を堪能しているときだろう。15人の役者が演じる役柄はそれぞれ社会的な役割を反映しており(活動家たちのほかに教員、商社マンなども登場する)、その諸々の対話の連なりは、不断に、各役割が接触した場合どんな出来事が起こりうるのかを丁寧に示し続けてゆく。複数の役割が一人の内で重なり合ってもいる(母で妻で活動家の女など)。そうした諸関係が、ぎくしゃくしたり、もつれたり、飛び火したり、停滞したり……。小さな空間で起こる接触の出来事たち、それらが不意に社会全体を表わしているようにも見えてくる。劇場を後にしてもなおその余韻は残り、しばらくバランスの変化するあれこれの瞬間を思い出し、反芻してしまった。

2010/05/11(火)(木村覚)

富士山 展

会期:2010/04/28~2010/05/16

ニュートロン東京[東京都]

富士山をテーマとしたグループ展。三瀬夏之介や山本太郎など9人のアーティストが絵画や映像などで富士山を表現したが、全体的に記号としての富士山を単純に持ち込んだ作品が多く、まるで物足りない。富士山とはいうまでもなく「日本」を象徴する役割を背負わされた表象であり、それはつまりさまざまな思想的な立場が激突する闘技場でもある。であれば、作品を見る側としては、そのような闘争こそ作品なり展覧会に見出したいという点がひとつ。もうひとつは、そうしたことを芸術に期待する考え方がすでに時代錯誤だとしても、闘争的な側面から富士山を開放するだけの別の文脈が用意されているわけでもないということ。ただ記号としての富士山が宙ぶらりんのまま作品のなかで消費されているという状況が、はたして何を意味しているのか、最後まで理解に苦しんだ。

2010/05/12(水)(福住廉)

大成哲 Glass Arts from 07 to 10

会期:2010/03/23~2010/05/28

チェコセンター(チェコ大使館内)[東京都]

ガラスを駆使するアーティストとして知られる大成哲の個展。ガラスの表面に入れたヒビによって世界地図を描いた作品などを発表した。暗い空間のなかで作品を見せることによってガラスの透明性を強調し、床にばら撒いたガラスの破片によってその脆さを効果的に表現していた。世界はかくも美しく、儚いものか。

2010/05/12(水)(福住廉)

超京都 現代美術@杉本家住宅

会期:2010/05/15~2010/05/16

杉本家住宅[京都府]

京都市の文化財であり、今年7月には国の重要文化財に指定される杉本家住宅。江戸時代の豪商のたたずまいをいまに伝えるこの町家で、一風変わったアートフェアが開催された。1週間前に開催された「アートフェア京都」と比べても場の独自性が際立っており、まさに京都以外ではあり得ないイベントであろう。フェアなので本来は売れ行きに関心を持つべきだが、ついつい展示に目が行ってしまう。床の間で茶器と抽象絵画の競演を演出した児玉画廊、仏間を生かしたMATSUO MEGUMI+VOICEGALLERY pfs/w、和室と親和性の高い作品を天井から吊るして印象的な展示を行なった東京画廊+BTAP、店の間と土間でネオン作品や人工的な着色のオブジェを展開したSUPER WINDOW PROJECTなど、挙げ始めたらきりがない。なかでも圧巻だったのが、杉本博司と須田悦弘を擁したギャラリー小柳。前栽を臨む座敷という最高の空間を生かして、見事というしかない美空間を出現させた。こうした各画廊のプレゼン合戦(意地の張り合い?)が拝めたのも、本イベントならではの楽しみだった。

2010/05/14(金)(小吹隆文)

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