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artscapeレビュー

本橋成一「在り処(ありか)」

2016年06月15日号

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会期:2016/02/07~2016/07/05

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

本橋成一は1940年東京生まれだから、荒木経惟、篠山紀信、沢渡朔、土田ヒロミ、須田一政らと同世代である。2歳上の森山大道や中平卓馬を含めて、まさに「日本写真」の黄金世代というべき充実した多彩な顔ぶれだが、本橋はそのなかでもやや地味な存在であり続けてきたといえるだろう。だが、その彼の50年以上に及ぶ写真家としての営みを集大成した、今回のIZU PHOTO MUSEUMでの展示を見ると、彼のしぶとく、したたかな仕事ぶりにあらためて目を見張ってしまう。ドキュメンタリー写真という枠組みにきちんと寄り添いながらも、ときにはそこからはみ出し、テーマ的にも、手法的にも、地域的にも、大きな広がりを持つ写真を撮り続けてきたことが、くっきりと見えてくるのだ。
約200点の展示作品は、1968年に第5回太陽賞を受賞した初期の代表作「炭鉱〈ヤマ〉」(1964~)をはじめとして、「上野駅」(1980~)、「屠場〈とば〉」(1986~)、「藝能東西」(1972~)、「サーカス」(1976~)、「アラヤシキ」(2011~)、「チェルノブイリ」(1991~)、「雄冬」(1963~)、「与論島」(1964~)といったテーマ別に並んでいた。そこから浮かび上がってくるのは、本橋がある特定の被写体に集中して撮影するよりは、その周囲の環境のディテールを丁寧に写し込んでいることだ。むしろ、聴覚や嗅覚や触覚を含めた全身感覚的なその場の空気感こそを、写真を通じて捉えようとしているように思える。本展のタイトルにもなっている「在り処」、すなわち「生が息づく場所」をどう定着するのかという持続的な関心こそが、本橋の真骨頂といえるのではないだろうか。
興味深かったのは、東京綜合写真専門学校在学中に撮影された、彼の最初期の作品「雄冬」と「与論島」に、すでに後年の本橋の、被写体の周辺を画面に広く取り入れていくスタイルがあらわれてきていることだ。北海道増毛町雄冬と鹿児島県与論島で撮影されたこれらの写真群を、展示の最後に置いたところに、本展を「原点回帰」として位置づけようという本橋の意思が、明確にあらわれているように感じた。

2016/05/01(日)(飯沢耕太郎)

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