2017年11月15日号
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artscapeレビュー

宮本隆司「九龍城砦」

2016年06月15日号

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会期:2016/05/20~2016/07/04

キヤノンギャラリーS[東京都]

「九龍城砦」が取り壊されて姿を消してから20年になるという。かつて「魔窟」と称され、数々の都市伝説に彩られた香港・啓徳空港近くの巨大高層スラムの記憶も、日々薄れつつあるのだろう。若い世代にとっては、まさに幻の建築物になってしまった。そうなると、宮本隆司が1980年台後半~90年代に撮影した写真群が、貴重なものになってくる。単純に資料的な価値だけでなく、宮本が本展のリーフレットに寄せた文章に書いているように、それが「困難な歴史を背負った無数の人々がたどり着いた極限の住居集合体」であり「中国人の集合的無意識の結晶体」であったことが、まざまざと浮かび上がってくるからだ。
同時に、「九龍城砦」のシリーズは、写真家・宮本隆司にとっても原点というべき作品である。1988年に大阪のINAXギャラリーで展示され、ペヨトル工房から写真集として刊行された同シリーズは、やはり同年に展示、出版された「建築の黙示録」とともに、第14回木村伊兵衛写真賞の受賞対象となった。今ふり返ると、宮本の都市環境と建築物に対するアプローチの原型が、まさにこの時期にできあがっていたことがよくわかる。展示を見て、最初にこのシリーズを見た時の衝撃が甦ってくるようで、感慨深いものがあった。かつては建築物の特異な外観や、まるで血管のように増殖するパイプやホースの群れに目を奪われていたのだが、あらためて見直すと、そこに住みついている人々の姿が生々しく定着されていることに気がつく。宮本に限らず、建築写真にヒトの居住空間という視点が明確に打ち出されてきたのも、このシリーズのあたりからだったのではないだろうか。

2016/05/27(金)(飯沢耕太郎)

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