2018年01月15日号
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artscapeレビュー

ポール・スミス展 HELLO, MY NAME IS PAUL SMITH

2016年10月01日号

会期:2016/07/27~2016/08/23

上野の森美術館[東京都]

2013年にロンドン、デザイン・ミュージアムで開幕した世界巡回展の東京展。日本ではすでに京都で開催され(京都国立近代美術館、2016/6/4~7/18)、このあと名古屋に巡回する(松坂屋美術館、2016/9/11~10/16)。
展示はポール・スミスの仕事そのものよりも、ポールの世界観、コレクションが生まれる場を見せる構成になっている。東京会場の最初の展示室は「アートウォール」。著名なアーティストの作品から、家族や友人、ファンから贈られたものまで、ポールが10代の頃から集めているという絵画や写真のなかから選ばれた約500点が壁を埋め尽くしている。なかには、ネットでジョーク写真として見かけたことがある画像のプリントもあり、どの作品も同種のシンプルなフレームに収められている。この展示が語るのは、作品のマーケットでの価値とは無関係に、ポールにとってのインスピレーション源としてこれらすべてがフラット、等価だということだろう。さまざまなオブジェが混沌と溢れるポールのオフィス、デザインスタジオの再現展示からも同様の印象を受ける。常にカメラを持ち歩いているというポールが撮影した写真による映像インスタレーション、他メーカーとのコラボレーション、一つひとつコンセプトが異なるというショップデザインが紹介されたあと、最後にファッション・ブランドとしてのポール・スミスの仕事、ショウの映像の部屋に至る。
この展覧会はデザイン・ミュージアムでは過去最多の入場者を記録したという。東京会場も若い人たちでいっぱいだった。会場は写真撮影自由。来場者には展覧会のイメージカラーであるピンクのイヤホンが配られ、スマートホンで無料の音声ガイドを聞くことができる。ポール・スミスという人物そしてブランドの世界観を伝える仕掛けとして、非常に成功していると思う。他方で、具体的なデザインのプロセスは曖昧だ。ポールは正規のデザイン教育を受けていない。彼はスケッチを描かない。自分は言葉でデザインするのだと語っている。ということは、誰か他のデザイナーたちがポールの世界観を共有し、彼の言葉を具体的な色や形に落とし込んでいるはずだ。再現されたスタジオの様子からその片鱗はうかがわれる。しかし他の人物の存在はほとんど語られない。世界約70の国と地域で展開するブランドに成長した現在でも、1970年にノッティンガムにオープンした最初の小さなショップと同様に、ここにはポールしかいない。ブランドとしてのポール・スミスは人物としてのポール・スミスと常にイコールなのだ。展覧会が見せているものと見せていないもの。その双方でブランドの神話はつくられている。[新川徳彦]

2016/08/10(水)(SYNK)

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