2018年12月01日号
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artscapeレビュー

Modern Beauty─フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代

2016年10月01日号

会期:2016/03/19~2016/09/04

ポーラ美術館[神奈川県]

ファッション、テキスタイルに関して多彩な主題の展覧会が多数開催されている今年、本展は美術・絵画のモチーフに現れた同時代のファッションを実物で見せるという構成になっている点、世田谷美術館で開催された「ファッション史の愉しみ」展にコンセプトが近い。ただし、「ファッション史の愉しみ」が20世紀初頭までのメディアとしてのファッションブック、ファッションプレートというファッションそのものを主題としていたのに対して、「Modern Beauty」は主にポーラ美術館が所蔵する19世紀後半から20世紀前半のフランス絵画を、そこに描かれた女性のファッションという視点から考察し、背景にある同時代の社会、経済、文化、思想、批評を通じてひも解こうというものだ。
19世紀後半、オートクチュール、百貨店、ファッション誌などの登場でファッションは産業化してゆく。工業や商業の発達は新たな富裕層を生み、彼らは自分たちのステータス、名誉を示すものとして肖像画を欲した。マネ、ルノワールらはそうした需要に応えた。肖像画に描かれた女性たちのファッションについてはそれを同定する研究がおこなわれているそうだ。本展には出品されていないが、ルノワールの肖像画にはシャルル・フレデリック・ウォルトのメゾンのドレスが描かれていたり、モネが描いた女性のドレスと同様のものを当時のファッションプレートに見ることができるという。新しい都市や郊外の風景、行楽地もまた絵画の主題になった。クロード・モネ《貨物列車》(1872)には、蒸気機関車に牽かれた貨物列車、奥には煙を上げる煙突が立ち並ぶ工業地帯、手前の草原には上品な身なりをして散歩するブルジョワの男女が小さく描かれている。描かれていないが向こう側の密集した工場では粗末な身なりをした人々が働いているはず。線路を挟んだ風景の対比には分断された社会層の存在がうかがわれる。19世紀半ばからヨーロッパでは公衆衛生学が発達するが、水、お湯の使用は贅沢であり、人々は体臭を緩和させるために香水を使用していたことや、化粧においては鉛毒がなく安価な亜鉛華白粉が普及したことと絵画に描かれた女性たちとの関係が、香水瓶や化粧道具の展示で示唆される。娼婦の身づくろいの場面に描かれた男性──すなわちパトロンの視線の指摘も興味深い。展示の最後はコルセットからの解放、すなわちポール・ポワレの登場だ。ポワレはデュフィにファッション画や広告デザインを依頼したり、共同でテキスタイルデザインを手がけるなど、画家と密接な関係を持ったデザイナーでもある。展示がこの時代で終わっているのは(ポーラ美術館の絵画コレクションが理由でもあるかもしれないが)、ファッションや風俗を描くメディアが絵画から写真へと移ったから、と理解してよいだろうか。
現代において印象派の画家たちの作品を見るとき、ついつい画家も古い時代の風俗を描いていたように錯覚してしまうことがあるのだが、古典を主題とした絵画とは異なり、これらが当時の最新のファッション、新しい風景を描いていたことがよくわかる好企画。出品作品だけで解説を完結させず、他美術館所蔵作品の写真も用いた具体的な解説も説得力を増している理由だろう。空調にのせたほのかな香りの演出もよい。[新川徳彦]

★──「ファッション史の愉しみ─石山彰ブック・コレクションより─」展(世田谷美術館、2016/02/13-04/10)。


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ファッション史の愉しみ──石山彰ブック・コレクションより:artscapeレビュー|SYNK(新川徳彦)

2016/09/04(日)(SYNK)

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