artscapeレビュー
KYOTO EXPERIMENT 2016 SPRING ショーケース「Forecast」国枝かつらプログラム
2016年04月15日号
会期:2016/03/20~2016/03/21
京都芸術センター フリースペース[京都府]
「KYOTO EXPERIMENT 2016 SPRING」公式プログラムとは異なる視点から舞台表現を紹介することを目的に、外部キュレーターを招聘し、ショーケース形式で新進作家を紹介する「Forecast」。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館学芸員、国枝かつらによるプログラムでは、「声と身体」に焦点をあてた作家3名が選出された。
中でも出色だったのが、梅田哲也の「COMPOSITE」。フィリピン山岳地帯の村の子どもたちと2014年に制作した作品が、再構築されて上演された。声と身体という最小限の要素を用いて、ルールの設定に即興を組み込むことで、共鳴と不調和が織り成す豊穣で示唆的な世界をつくり上げている。
6人の男女が輪をつくり、「アレアレウッウッ」という独特の掛け声を発しながら、腕や肩や太ももを叩き、足踏みを鳴らして、一定のリズムを反復する。全員が同じリズムパターンではなく、向き合った2組ごとに三つのパターンが掛け合わされる。リズムが途切れると、輪を左周りに回転させ、少しリズムパターンを変化させて、掛け声や手足を叩く音を繰り返す。原始的な儀式のような光景だ。構成要素はミニマルだが、パターンの選択と順列、声の高低、身体を叩く部位に関する複数のルールがおそらく設定されているのだろう。単純な要素の反復とズレによって多様なパターンが生成され、声と身体の音が折り重なった音楽を立ち上げていく。パフォーマーたちは皆、目をつぶっており、それぞれに課せられたルールを順守しようと内側への集中を高めるとともに、外部の音へと聴覚を研ぎ澄ましているように見える。
しばらくすると、客席から6人の子どもたちが飛び出し、もうひとつの輪をつくって同じような掛け合いを始める。しかしお互いの発するリズムがズレているため、二つの輪は完全には同期せず、不協和音が波紋のように広がっていく。そのうち、別の大人の男女6名が舞台上に加わり、単調な節回しのメロディを歌いながら、一歩ずつ前進と後退を繰り返し始める。第三勢力の登場だ。この第三勢力は、輪をつくっていた二つのグループにはない「能力」を有しており、1)(おそらくルールに従って)一歩ごとに移動できる、2)移動先で接触した相手を同じメロディに吸収することができる。こうして、身体の接触を契機として、集団内で共有されていた「ルールの順守」にほころびが現われ、徐々に崩壊していく。掛け声や足踏みを反復していた輪のパフォーマーたちは、ひとり、またひとりと単調な節回しのメロディを歌い、輪から外れてバラバラな方向へ歩き始める。大人の輪も子どもだけの輪も解体し、混ざり合い、輪郭が溶け合っていく。古いルールの崩壊と新たなルールの浸食、ひとつの共同体の解体と融合のはざまに出現する、カオティックな音響世界。
そして暗転と一瞬の静寂後、灯りに照らされた空間には、全員が同じ単一のメロディを歌う姿が出現した。ノイズは排除され、「美しく」調和した音楽だけがそこにある。ただし目を閉じたまま、お互いがどこにいるかも分からない暗闇の中、バラバラな方向への一進一退を繰り返しながら。それは他者への共鳴や共感が浸透した世界なのか、それとも個々はバラバラに分断されたまま、支配的な単一の旋律が全体に波及し飲み込み覆っていく過程の恐るべき出現なのか。
ショーケース「Forecast」国枝かつらプログラム/梅田哲也「COMPOSITE」
Photo: Tetsuya Hayashiguchi
2016/03/21(月)(高嶋慈)