artscapeレビュー
ダヤニータ・シン「インドの大きな家の美術館」
2017年06月15日号
会期:2017/05/20~2017/07/17
東京都写真美術館2階展示室[東京都]
インド・ニューデリー出身の女性写真家、ダヤニータ・シンの《インドの大きな美術館(Museum of Bhavan)》の展示は、とても興味深いインスタレーションの試みだった。会場には木で組み上げられた枠組みが設置されており、それらは自由に折り畳んだり開いたりできる。枠にはフレーム入りの写真を展示ができるのだが、それらも入れ替えが可能だ。つまりこの「美術館」は、作家自身をキュレーターとして、たとえ会期中でも組み替えが可能な、可動式のプライヴェート・ミュージアムなのだ。ダヤニータ・シンは、さまざまな「書類」をモチーフにした《ファイル・ミュージアム》(2012)を皮切りに、このシリーズを制作し始めたのだが、その発想のきっかけになったのは、2011年に京都を訪れたとき、襖や障子で間取りを変えることができる日本旅館に泊まったことだったという。いかにも日本人が思いつきそうなアイディアを、インド人の彼女が形にしていったというのが面白い。
実際に「美術館」に展示されている中には、これまで彼女が撮影してきた写真シリーズの作品も含まれている。「ユーナック」(去勢された男性)のモナを撮影した「マイセルフ・モナ・アハメド」(1989~2000)、アナンダマイ・マーの僧院の少女たちのポートレート「私としての私」(1999)などの写真が、「美術館」のなかに組み入れられ、新たな生を得て再構築される。近作になるに従って、その構造はより飛躍の多い、融通無碍なものとなり、ドキュメンタリーとフィクションが入り混じった独特の雰囲気を発するようになる。写真を「見せる」ことの可能性を、大きく更新する意欲的な作品といえるだろう。
なお本展と同時開催で、同美術館のコレクション展「いま、ここにいる──平成をスクロールする 春期」展がスタートした。1990年代以降の日本の写真表現を、収蔵作品によって辿り直す企画で、夏期の「コミュニケーションと孤独」、秋期の「シンクロニシティ」と続く。個展の集合体というやり方をとったことで、すっきりとした見やすい展示になっていた。全部見終わったときに、どんな眺めが見えてくるのかを確認したい。
2017/05/19(金)(飯沢耕太郎)