artscapeレビュー
インベカヲリ★「車輪がはけるとき」
2017年06月15日号
会期:2017/05/05~2017/05/21
神保町画廊[東京都]
インベカヲリ★は、写真を撮影する前にモデルの女性たちにインタビューし、そこで出た話題を元にして、撮影のシチュエーションを決めていく。だが、最終的に写真が発表されるときには、その話がどんなものだったのか、テキストとして示されることはない。タイトルに、その内容が暗示されるだけだ。そのことについては、以前からややフラストレーションを覚えていて、もっときちんとテキスト化された文章を、写真と一緒に見たいと思っていた。
だが、今回の神保町画廊での展示(新作13点、旧作7点)を見て、その考えがやや変わった。というのは、インベの作品タイトルは、それ自体がふくらみを備えていて、観客のイマジネーションを強く刺激するので、テキストでそれを固定する必要がないように思えてきたからだ。例えば表題作の「車輪がはけるとき」は、黒と赤の衣装を身につけた二人の女性が窓越しに向き合う場面を撮影している。「自分勝手の推奨」は、道でラーメンのどんぶりをかかえて食べようとしているOL風の女性、「裂けるチーズ現象」は、水たまりのある公園でうつぶせになって顔を上げている女性を撮影した写真だ。むろん、写真を見ただけでは、タイトルに込められた意味はストレートに伝わってこない。だが逆に、観客は写真を見ながら、タイトルをヒントにして自分なりの物語を構築することができる。その面白さを、今回あらためて感じることができた。
インベのデビュー写真集『やっぱ月帰るわ、私。』(赤々舎、2013)の刊行からすでに5年近くが過ぎている。そろそろ次の写真集が出てもいいのではと思っていたら、赤々舎で企画が進んでいるそうだ。どんな写真集になるのかが楽しみだ。
2017/05/05(金)(飯沢耕太郎)