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異郷のモダニズム─満洲写真全史─

2017年06月15日号

会期:2017/04/29~2017/06/25

名古屋市美術館[愛知県]

1932(昭和7)年に中国東北部に建国された満洲国については、どうしても負のイメージがまつわり付いている。「五族協和」や「王道楽土」といった耳障りのいいスローガンを掲げていたにもかかわらず、実質的には日本の傀儡国家であったことは明らかだからだ。だがその満洲の地に、独特の色合いを帯びた写真文化が花開いていたことは、それほど知られていないのではないだろうか。今回、名古屋市美術館で開催された「異郷のモダニズム─満洲写真全史─」展は、まさにその「満洲写真」研究の集大成というべき展覧会である。
じつは「異郷のモダニズム」と題する展覧会は、1994年に同美術館ですでに開催されている。そのときには、1928年に南満州鉄道(満鉄)弘報課嘱託として渡満し、1932年に「満洲写真作家協会」を組織した淵上白陽を中心とした、馬場八潮、米城善右衛門、土肥雄二、岡田中治らの、ピクトリアリズムとリアリズムを融合した作品群が中心に展示されていた。だが今回は、その前後の時期の写真も取り上げられている。
具体的には宮城県出身の櫻井一郎が、自ら撮影した写真印画を頒布する目的で1926年に組織した「亜東印画協会」の活動、さらにアメリカの戦後対日賠償に関する調査団(「ポーレー・ミッション」)の報告書に掲載された、満洲国崩壊直後の工場、工業施設の記録写真がそうである。これらの写真群によって、「満洲写真」はさらなる厚みと奥行きを備えて立ち上がってきたといえるだろう。約450点(展示替えの分を含めると約600点)の写真が放つ熱量はまさに圧倒的なものだった。長年にわたって調査・研究を進めてきた同館学芸員の竹葉丈の力業に敬意を表したい。
なお、展覧会に合わせて、貴重な図版や資料を多数収録した同名の写真集(カタログ)が国書刊行会から出版されている。

2017/05/18(木)(飯沢耕太郎)

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