artscapeレビュー
糸崎公朗「フォトモの世界」
2017年06月15日号
会期:2017/04/21~2017/05/20
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
糸崎公朗は1990年に漫画家の森田信吾と「非ユークリッド写真連盟」を結成し、路上の「非人称芸術」を撮影・記録する作業を開始した。その一環として、1993年ごろから制作し始めたのが、「フォトモ」と称する技法による作品である。「フォトモ」は、建物や通行人の写真を切り抜いてコラージュし、立体模型として組み立て可能な状態に平面図として提示したものだ。制作のきっかけになったのは、たまたま葛飾北斎の「立版古」の作品を見たことだったという。「フォトモ」シリーズは1996~2004年にかけて雑誌『散歩の達人』に連載され、99年には森田との共著で『フォトモ──路上写真の新展開』(工作舎)が刊行されて、糸崎の代表作となる。今回のEMON PHOTO GALLERYでの個展では、『散歩の達人』掲載時の版下に加えて、新作の「フォトモ」も出品されていた。
「フォトモ」の面白さは、東京の商店街や飲食店街の雑多なカオス的な空間が、そのまま縮小して立ち上がってくるところにある。その意味では、ディテールの精度と質感が大事になってくるので、やはり銀塩写真のプリントをそのまま貼り付けた旧作のほうが見応えがあった。デジタルプリントの新作だと、どうしても物質性が稀薄になっているように感じられるのだ。
それと、平面図でも組み立てた状態を想像できなくはないが、やはり立体化して展示したほうが圧倒的に面白い。今回は、新作の香港の作品だけが立体化して、テーブルの上に展示されていたのだが、そのかたちでもっと見たかった。糸崎の仕事はいうまでもなく、1980年代以降に赤瀬川原平らが提唱した「路上観察学」の系譜を受け継ぐものである。路上での発見の歓びを、写真を通じて検証・保存しようとする営みは、これから先も続いていくのだろう。手作りのよさを活かしながらも、さらに進化した「フォトモ」を見せてほしいものだ。
2017/05/10(水)(飯沢耕太郎)