artscapeレビュー

飯嶋桃代展「鏡とボタン─ふたつの世界を繋ぐもの」

2018年08月01日号

会期:2018/06/11~2018/06/30

ギャルリー東京ユマニテ[東京都]

画廊の正面の壁をミラーシートで覆い、その鏡面に5つの異なる色のボタンをつけ、手前に吊るされた白い服にはそれらのボタンに対応する色の穴(ボタンホール)を空けている。まあこれだけでもなんとなく意味ありげで、見ごたえのあるインスタレーションではあるが、これはジャン・コクトー監督の映画「オルフェ」に刺激されたものだという。もともとオルフェウス(オルフェ)は竪琴の名手で、死んだ妻エウリュディケーを取り戻すため冥界に下りて妻を連れ戻すが、最後に約束を破って後ろを振り返ったため妻は再び冥界へ戻され、オルフェウスも悲しんで身を投げるという神話。映画で印象的なのは冥界=鏡のなかに入っていくシーン(そこしか覚えてない)だが、その現実と冥界を分ける境界がこの鏡面だ。そして鏡面上のボタンの位置は、主を失った竪琴が星座になったという琴座のかたちを表わしているそうだ。また、ボタンとホールは男女の比喩かもしれない。考えているうちに鏡の向こう側にずぶずぶと引き込まれてしまいそうな作品。

2018/06/30(村田真)

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