artscapeレビュー

円盤に乗る派『正気を保つために』

2018年08月01日号

会期:2018/07/05~2018/07/10

BUoY[東京都]

sons wo:として演劇作品を上演してきたカゲヤマ気象台が、「円盤に乗る派」の名で新たなスタートを切った。「複数の作家・表現者が一緒にフラットにいられるための時間、あるべきところにいられるような場所を作るプロジェクト」として、カゲヤマによる上演作品を軸としつつ「様々なプログラムや冊子の発行」を行なうのだという。今回は上演と合わせてポスト・パフォーマンス・パフォーマンス、ポスト・パフォーマンス・パーティ、シンポジウム「肉が柔らかくなるまで未来について話す」、生活状態(ライフスタイル)誌『STONE/ストーン』の発行が行なわれた。

『正気を保つために』はハードボイルド調の三人芝居。探偵事務所を構えたばかりの田七(峰松智弘)のところに小林弐千年(小山薫子)が訪ねてくるところから物語は始まる。だが、もうひとりの登場人物・未知(立蔵葉子)も含めた彼らの関係は不明瞭で、ときに家族や同級生であるかのようにも見える。彼らは互いに対して、記憶が混線しているかのように存在している。

[撮影:濱田晋]

ところで、彼らの台詞にはきわめて多くの固有名詞が登場する。ポランスキー、神田川、デニーズ、つかこうへい、ラジオ・ヘッドetc.。これらの単語は登場人物にとって、あるいは物語にとって必ずしも重要なわけではない。しかし彼らがそれを口にするということは、それが何らかのかたちで彼らの人生に関わっていることを意味している。つまり、それは彼らの人生の一部だ。

「円盤に乗る派宣言」には次のような一節がある。「人間のかたちをして生きていくとき大事なのは、いつでも円盤に乗れるようにしておくことだ。そこでは見たことのない、知らないものがなぜか親しい」。より多くの人間の営みが集うようなかたちでカゲヤマが活動を再始動したのは、だからそういうことなのだろう。正気を保つために必要なのは、独りきりの強い意志でも自我でもない。私は大きな意味を持たない無数の断片でできている。

[撮影:濱田晋]

公式ページ:http://noruha.net/

2018/07/09(山﨑健太)

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