artscapeレビュー

日本・オランダ国際共同製作『雅歌(GAKA)』

2018年08月01日号

会期:2018/07/13~2018/07/14

高知県立美術館・中庭[高知県]

オランダ在住のピアニスト・美術家・演出家の向井山朋子がコンセプトと演出、振付家・ダンサーの山田うんが振付を担当した本作。「現代の儀式」は、遠い未来から過去たる現在を召喚するようで、私は自身のいる「今ここ」が確かに変質していくのを感じた。

土佐漆喰の土蔵がモチーフだという美術館の建物だが、その中庭は柱廊に囲まれ、どこか西洋の雰囲気も感じさせる。「儀式」はその4分の1ほどを占める石造りの舞台を含めた中庭の全体を使って執り行なわれた。客席は柱廊に設えられ、中庭を三面から臨む。夏の空は暮れつつもまだ青い。太鼓を打つ音がひとつ。と思ううちにそれは数を増し、中庭に音が渦巻く。柱廊の2階部分に現われた女たちは中庭へと移動し、手にする楽器は瓢箪型の笛(フルスという中国の楽器らしい)へと変わる。振りを共有しつつも集合離散を繰り返す鳥の群れのような舞は奏でられる音楽とどこか似ている。

舞台奥から真っ白な何かに覆われた人型のモノが現われる。死の先触れだろうか。女たちが次々と倒れていく。動きを止めた白い何かから、ずるりと脱皮するようにして現われる女の裸。死と再生。その姿は力強くもどこか禍々しい。空の色はこの世のものとも思えないピンク。やがて立ち上がった女たちは銀色の薄布で中庭を覆っていく。舞台奥から観客のいる縁まで届く長さの薄布が、一枚また一枚と緩やかに厳かに中庭を覆い尽くすころ、すべては宵闇にその輪郭を溶かし始めている。女たちは去る。儀式の進行を司るかのごとき和太鼓の鼓手(それは唯一の男でもある)が中央に進み出ると、神楽を舞い、祝詞を唱える。彼も去る。じりじりと夜が深さを増し──再び灯された館内の明かりが私を現実に引き戻す。

薄布と宵闇に覆われ、色も輪郭も失った中庭と柱廊の姿は、火山灰に埋もれた異国の遺跡を私に思わせた。それはこの中庭が、現在の痕跡となり果てる遠い未来の幻視だ。そこに私はもういない。

[撮影:丹澤由棋]

公式ページ:https://moak.jp/event/performing_arts/mukaiyamatomoko_gaka.html

2018/07/13(山﨑健太)

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