artscapeレビュー
広川泰士「Portraits」
2018年08月01日号
会期:2018/06/18~2018/08/12
写大ギャラリー[東京都]
ファッションや広告の世界で活動しながら、日本各地の原子力発電所の施設を撮影した「STILL CRASY」(1994)、東日本大震災以後の日本の風景の変貌を緻密な描写で捉えた「BABEL」(2015)など、志の高い写真シリーズで知られる広川泰士。その彼の1970年代からの写真家としての軌跡を、「Portraits」という括りで概観する興味深い企画展である。
ファッション・広告写真家がポートレートを撮影すると、往々にして被写体を「ねじ伏せる」ような強引な撮り方になりがちだ。だが、広川の作品を見ると、まずはモデルたちに向き合って、彼らが発するエネルギーを受け止め、柔らかに絡めとっていくようなやり方をしているのがわかる。特にモデルが単独ではなく複数の場合、その気配りがうまく働いている。イッセイミヤケやコムデギャルソンなどのファッションを身にまとった「普通の人々」を撮影した『sonomama sonomama』(1987)や、芸能人や文化人の「家族」にカメラを向けた「家族の肖像」(1985~)の頃から、その傾向ははっきりとあらわれていて、広川のトレードマークと言えるような、群像のポートレートの撮影のスタイルが確実に形をとっていった。その手法は、震災以後に福島県相馬市や宮城県気仙沼市で撮影された、被災者の家族のポートレートにも見事に活かされている。
広川は「Portraits」のモデルたちに対して、風景に対峙するときとはまた違った、好奇心を全開にしたオープンな態度で接している。それが、のびやかな開放感につながっているのではないだろうか。彼の鍛え上げられたカメラアイは、これから先も厚みと多様性を備えた、クオリティの高い作品に結びついていきそうだ。
2018/07/03(火)(飯沢耕太郎)