artscapeレビュー
岡本神草の時代展
2018年08月01日号
会期:2018/05/30~2018/07/08
千葉市美術館[千葉県]
出品目録を見ると、作品数は計166点というからかなり大規模。でも「─の時代展」と題されているように、岡本神草だけでなく同時代の菊池契月、甲斐庄楠音、稲垣仲静、梶原緋佐子といった日本画家の作品も含まれていて、神草だけだと123点。しかも前期と後期で展示替えがあり、おまけに前半は大半がスケッチや下絵に占められ、ようやく本画が登場したと思ったら途中でぷっつり終わってしまい、ややハンパというか、たっぷり見せていただきました的な充実感は少ない。もっともそれは企画者のせいではなく、神草自身が若くして突然亡くなってしまったからであり、また量的な充実感はなくても、質的には数点ながら満足のいく作品があったことは特筆しておきたい。
さて、神草といえばなんといっても“デロリ系”の女性像に期待したわけだが、京都市立絵画専門学校の卒業制作で描いた《口紅》(1918)を最初のピークとして、特有の妖艶かつ不気味な表情は《拳を打てる三人の舞妓の習作》(1920)に受け継がれていく。ところがその後リアルな陰影表現を採り入れ、《仮面を持てる女》(1922)や《五女遊戯》(1925)などに変容。これはこれで妖艶なのだが、昭和に入るとまたスタイルが変わり、《化粧》(1928)、《婦女遊戯》(1932)といった浮世絵風のフラットな表現に回帰し、その翌年38歳で急逝してしまう。ハンパ感が否めないのはそのためだ。したがって、もっとも妖艶で不気味な魅力を発散させていたのは大正期で、それは甲斐庄楠音の《横櫛》、丸岡比呂史の《夏の苑》、稲垣仲静の《太夫》など、同世代の画家たちにも当てはまる。そして彼らも昭和に入るとあっさり系に転じてしまうのだ。考えてみればこれは岸田劉生をはじめとする洋画家にもいえることで、ここに大正と昭和の時代精神がはっきり表れているような気がする。
2018/07/03(村田真)