artscapeレビュー

話しているのは誰? 現代美術に潜む文学

2019年10月01日号

会期:2019/08/28~2019/11/11

国立新美術館 企画展示室1E[東京都]

タイトルを聞いたときは、文学と現代美術との関係を問い直す展覧会ではないかと思った。つまり、プルーストの『失われた時を求めて』やカフカの『変身』のような、具体的な文学作品が下敷きにある現代美術作品を集めた企画だと思ったのだ。ところが展示を見て、それがまったくの誤解であることがわかった。「ここでの文学は、一般に芸術ジャンル上で分類される文学、つまり書物の形態をとる文学作品だけを示すわけではありません」ということだったのだ。

今回展示されたのは、現代美術作家たちが何らかのかたちで「文学的要素」を取り入れて制作した作品である。つまり、その解釈の幅はかなり広い。さらに、北島敬三、小林エリカ、ミヤギフトシ、田村友一郎、豊嶋康子、山城知佳子という出品作家の顔ぶれを見ると、1950年代生まれから80年代生まれまでが含まれており、写真、映像、オブジェ、パフォーマンス、インスタレーションなど、ジャンルも多岐にわたる。かなりバラついた展示になる恐れもあったが、実際には互いの作品がうまく絡み合って、すっきりとした、緊張感のある展示空間が構築されていた。

全体的に写真・映像作品の比率が高い展示になったのも興味深い。「EASTERN EUROPE 1983-1984」、「USSR 1991」、「UNTITLED RECORDS」という3つの写真シリーズを出品している北島敬三はもちろんだが、ほかの出品作家も豊嶋康子を除いては、写真か映像、あるいはその両方を使っている。おそらく写真という具体性と象徴性をあわせ持つ媒体の喚起力が、「文学的要素」を取り込むのに向いているのだろう。個人的には、山城知佳子の映像作品《チンビン・ウェスタン『家族の表象』》(2019)が面白かった。沖縄の現実をオペラや琉歌やロックに乗せて歌い上げる、活気あふれるショート・ムービーである。

2019/08/28(水)(飯沢耕太郎)

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