artscapeレビュー
コートールド美術館展 魅惑の印象派
2019年10月01日号
会期:2019/09/10~2019/12/15
東京都美術館[東京都]
ロンドンのコートールド美術館が改修工事による休館のため、印象派をはじめとする名作がごっそり借りられたそうだ。コートールド美術館は、サミュエル・コートールド(1876-1947)が集めた美術品を公開・研究する美術研究所の中核をなす美術館。
コートールドは松方幸次郎(1866-1950)とほぼ同時代の実業家で、印象派を中心に買い集めたのも同じ。違うのは、コートールドが松方より遅い1920年代の数年間に大半の作品を収集したこと。そして、松方が不況に陥ってコレクションを手放したのに対し、コートールドは1932年に美術研究所を設立してコレクションを寄贈したこと。この早業が決定的だったかもしれない。あ、もう1つ、松方よりコートールドのほうがはるかに見る目があったことだ。
今回も、ポスターやチラシにも使われているマネの《フォリー・ベルジェールのバー》をはじめ、ルノワール《桟敷席》、セザンヌ《カード遊びをする人々》、ゴーガン《ネヴァーモア》、モディリアーニ《裸婦》など、画集や教科書で見たことのある名画がずらりと並んでいる。でもいくら目利きとはいえ、コートールドが名画ばかりを選んで買い集めたわけではない。そうではなく、彼が集めた絵画をみずから建てた美術館で公開し、研究対象にし、画集に使ってもらうことで世界的に有名にしたと考えるべきだろう。美術品は個人的に楽しむものではなく、公共の財産だという信念がここにはある。もちろんそのことで作品の価値も上がるのだから、イギリス人の戦略勝ちである。
2019/09/09(月)(村田真)