artscapeレビュー

高橋万里子「スーベニア」

2019年10月01日号

会期:2019/09/15~2019/10/06

photographers’ gallery[東京都]

高橋万里子のphotographers’ galleryでの展示は6年ぶりだという。高橋は同ギャラリーの創設メンバーのひとりだが、展示のペースはこのところだいぶ落ちている。だがその分、じっくりと時間をかけて表現を熟成させることができるようになったようで、今回の「スーベニア」も味わい深いいい作品だった。

作品自体は単純な造りで、「それぞれに違った苦労や喜びを抱えながら生きてきた友人たち」のポートレートと、「色々な土地で過ごした時間、そのささやかな思い出の品、スーベニア」の写真とを交互に並べている。取り立ててポージングをしたり、構図を考えたりしたようには見えない自然体の撮り方を貫くことで、6人の同世代、同性の「友人たち」と、こけし、人形、水差し、動物の置物といった「スーベニア」とが互いに溶け合って、ゆったりとした居心地のいい空気感を醸し出していた。高橋はこのシリーズで、はじめてデジタルカメラを使用して撮影したのだという。ややブレ気味の写真が目につくが、それも特に狙ったわけではなく、ライティングや露光時間の関係で巧まずしてブレたということのようだ。それでもよく見ると、被写体の選択、プリントの色味の調整、写真相互の配置などに、細やかな神経を使っていることがわかる。見かけよりも奥行きのある写真シリーズといえるだろう。

高橋は1990年代からの発表歴を持つ写真家だが、まだ個人の写真集を出版していない。そろそろ、これまでの仕事をまとめてほしいものだ。

2019/09/19(木)(飯沢耕太郎)

2019年10月01日号の
artscapeレビュー